特定秘密保護法、12月10日に施行する方針
政府は、特定秘密の保護に関する法律、いわゆる「特定秘密保護法」(以下、「本法」といいます)を平成26年12月10日に施行する方針を固めました。本法は、国の安全保障に関する事項のうち、特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護することが目的であると規定されています。昨年12月に成立し、「知る権利」に反するといった否定的な意見も多いところです。一方で、本法は実質的には今まで我が国には無かった「スパイ防止法」であるという点を肯定的に評価する意見も見られます。
今回は、本法について反対か賛成かという議論はさておき、これがスパイ防止に資するかという点にフォーカスしてみます。
スパイ行為を抑止するため法律としては、罰則が軽すぎる
「日本は『スパイ天国』である」などという論評等を時折目にしますが、本法の施行により、そういった汚名を返上できるかと言われれば、必ずしもそうとはいえないというのが私の考えです。
本法では、いわゆる「スパイ行為」にも適用される罰則があります。しかし、本法はあくまでも「スパイ防止」を主眼として制定された法律ではありません。したがって、スパイに対しても民間人に対しても同じ罰則が適用されます。要するに、国家を揺るがすような危険が伴うスパイ行為を抑止するため法律としては、罰則が軽すぎるのです。これが第一の理由です。
組織的な活動への対応と予防的措置が不十分
第二の理由としては、本法の罰則の対象はあくまでも当該行為を行った者ないし共謀、教唆、煽動した者に限られていることが挙げられます。「煽動した者」まで処罰範囲を定めたことは一定の意義があるとは思います。しかし、真に防止すべきスパイ諜報工作活動は敵性国家による組織的な行為です。単に実行者や共謀者等にのみ罰則を与えたとしても、所詮は「トカゲの尻尾切り」で終わることは目に見えています。そういった組織的な活動に対応していなければ、スパイ行為を抑止することにはつながりにくいといえます。具体的には、組織的認定の基準を設けること、当該組織(国家)に対する制裁を明記することが最低限必要であると考えます。
第三の理由としては、予防的措置が不十分である点が挙げられます。本法では実行行為と未遂を罰する規定にはなっています。しかし、スパイ防止という国家の一大事に備える法律としては心もとないものといえます。国家の存亡を揺るがすような秘密は、漏えいしてしまったら一巻の終わりです。より事前に取り締まる制度が必要です。具体的には、実際の特定秘密情報についての収集行為そのものに限らず、予備的行為、準備行為についても取り締まることができるような規定が必要でしょう。
(河野 晃/弁護士)