厚労省が年次有給休暇の消化の義務付けを検討。罰則規定も
年次有給休暇は、1936年のILO(国際労働機関)の勧告によると「休息、娯楽及び能力の啓発のための機会の確保」と規定されています。これを受けて日本でも「労働者の健康で文化的な生活の実現に資するために、労働者に対し、休日以外に毎年一定日数の休暇を有給で保障する制度」としています。年休権とは、労働者が有する権利なのです。
厚生労働省は、企業に対して社員の年次有給休暇の消化を義務付ける検討に入りました。中小企業も含む全企業を義務化の対象とし、有給休暇の20日分の一部分に対して義務化を課します。年休未消化の社員が多い会社には、罰則を課すことも規定します。この厚生労働省の発表を受けて、多くの人は期待半分、不安半分ではないでしょうか?
有給休暇はあくまで労働者の権利。会社は使用を拒否できない
制度が実態として定着している大企業は別として、多くの中小企業において、有給休暇は申請し難いものになっていることが少なくないでしょう。ここで有給休暇にまつわる誤解を解説します。申請がし難いことに関していえば、有給休暇はあくまで労働者の権利であり、会社が使用を拒否することはできません。会社ができることといえば、使用日時の変更を求めることだけです。
「パート、アルバイトだから有給は無い」という話もよく聞きますが、これも嘘です。労働時間や出勤日数によって比例的に付与されます。また、会社による買い上げも現時点では違反行為です。そして、有給休暇取得を理由にした不利益な取り扱いもしないようにしなければならない、となっています。
有給消化義務化をめぐる期待と懸念
有給休暇は、直接雇用されている人はその会社、派遣社員は派遣元企業に請求します。そして、労働した「御褒美」に有給休暇が与えられるわけです(付与要件は割愛します)。その権利は、労働者にあると説明しました。義務化されたら間違いなく休日は増えます。観光やレジャー産業への経済効果は期待できるでしょう。そして、代替要員確保の意味で雇用機会が増える可能性も考えられます。しかし、裏側から見ると、手放しで喜べそうもありません。
まず、労働者の権利でありながら、強制的に会社側に休日を決められてしまうことが懸念されます。次に、年中無休のサービス業では、有給を見込んでの雇用コストが増大になることも考えられます。派遣元企業にとっては、代替要員の確保や代替者との連携問題などが出てきそうです。
義務化を待たず、上手く活用して企業の収益増につなげるべき
長時間勤務なり、休みを取らないことは企業には労災リスクとして降りかかります。人は働き続けていると生産性が下がります。適度に休憩や休息を取った方が生産効率が高くなるということは、デール・カーネギーの「道は開ける」にも記述されています。
有給休暇を取ることでワークライフバランスが保たれ、助け合いの精神が育まれ、作業効率が上がり、企業利益を増大させている事例も多数あります。私は有給休暇は「使いよう」だと考えています。義務化を待たず、上手く活用して企業の収益増につなげるようにしませんか?
(佐藤 憲彦/社会保険労務士)