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バラムツ試食授業に集まる批判の代償

JIJICO 2014年10月13日 15時0分

名古屋市内の専門学校でバラムツを試食する授業が問題に

「バラムツ」という魚の名前を聞いたことがあるでしょうか。東京湾でも取れる意外にポピュラーな深海魚で、特徴的なウロコは薔薇の棘に似ているので「薔薇ムツ」と呼ばれます。ただし、本物のムツと近縁種ではありません。大きなものは体長2メートルを超え、引きが強力でスポーツフィッシング好きには格好の獲物の一つとされます。先日、名古屋市内の専門学校で、講師がバラムツを生徒50人に試食させて問題になりました。問題の論点は、バラムツが有害な魚として国が食用を禁止していることにあります。

「バラムツ」は英名を「Oilfish(オイルフィッシュ)」と言い、この魚が大量の脂質を含んでいる事に由来しています。筋肉中の23パーセントが脂質で、これはトロに匹敵する比率です。つまり、全身トロの魚と言うことになります。インターネットで調べましたが、この魚を食べた人の感想で、「まずい」というものは一件も見つけられませんでした。「トロよりうまい」「売っていないので釣ってでも食べたい」など、絶賛の嵐です。

韓国では2007年まで「白マグロ」と銘打って流通しており、日本でも1970年に食品衛生法で禁止されるまでは練り物に混ぜて使っていました。中国でも「タラ」と偽称し、かなりの数が出回っているようです。

「毒物」だらけの世の中で、バラムツを口にすることは問題なのか

しかし、実はこの魚の23パーセントの脂質のうち、9割以上が「ワックスエステル」という特殊な脂質なのです。「ワックスエステル」というと聞き慣れませんが、「ワックス」や「ロウソク」の原料といえば理解できるかもしれません。このワックスエステル、人間は体内で分解することができません。バラムツを「たくさん」食べれば、体内温度で溶けて「油状」になり、便意も催さず、気付かぬうちに漏れ出してしまいます。

また、一部ではバラムツを多量に食べた人が昏睡状態になり、死亡した例もあるそうです。しかし、誤解を恐れずに言うと、どんなものでも大量に摂取すれば死亡することもあり得ます。

個人差はありますが、醤油もウイスキーも1リットルほど飲めば生命に危険を及ぼします。食塩もたった200グラムで致死量、コーヒーも70杯飲めば、カフェインで死亡する可能性が出てきます。こんな「毒物」だらけの世の中で、食べられている国もあるバラムツの小片を口にしたところで、問題があると言えるのでしょうか。

食品衛生課の指導で教育現場が委縮してしまうことへの危惧

また、授業を行った講師はその道の専門家で、バラムツの危険性について詳しく生徒に話をした上、湯通しして油を抜き、親指の先ほどの大きさにしたものを任意で食べさせたと聞きます。この行為のどこに問題があるのか、私には理解できません。仮にこれが危険だと判断されるなら、他にも食べてはいけない物が無数にあります。

今回の騒動の発端は、この専門学校でのバラムツ試食授業の情報が、どういうわけか市食品衛生課に流れた、ということによるものです。事実、通報を受けた名古屋市食品衛生課からの指摘により、学校側は再発防止を図る考えを示しています。役所が「通報」を放置できないのはわかりますが、もっと異なる対処法は存在しなかったのでしょうか。このような指導で教育現場が委縮し、面白い授業がなくなってしまうことの方がはるかに恐ろしいことだと思います。人類の進歩は、人類の「知的好奇心」による「冒険」なしにはあり得ないはずです。

一方、この問題の影響でおそらく「バラムツ」のネット検索数はアップし、「いつかバラムツを口にしよう」と決心した人の数が相当数存在すると思われます。結果、「食品衛生課」の趣旨とは真逆の結果に向かうことになるかもしれません。

(北川 実/理科講師)

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