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元少年の実名本「違法性なし」判決のポイント

JIJICO 2014年10月14日 12時0分

最高裁、山口県光市で母子殺害事件を犯した元少年の上告を棄却

18歳当時の1999年に山口県光市で母子殺害事件を犯し死刑判決が確定した元少年が、実名が掲載された書籍の出版によりプライバシーを侵害されたとして、著者と出版元を相手に損害賠償や出版差止などを求めた訴訟の上告審で、このほど最高裁は元少年の上告を棄却しました。

第一審の広島地裁は、出版差止請求を退ける一方で、プライバシーの侵害を理由に著者と出版元に合計66万円の損害賠償を命じています。しかし、控訴審の広島高裁は、書籍の出版にあたり元少年の同意があったことや、書籍や記事の目的・内容などから、少年法の規定を考慮しても、なお違法とはいえないと判断し、元少年の賠償請求についても退けました。最高裁の上告棄却決定により、元少年側が全面敗訴となった広島高裁判決が確定することになります。

「犯時少年」の場合、本人を特定できる情報の掲載は一律禁止

この書籍は「福田君を殺して何になる」というタイトル自体に元少年の実名が使われており、もちろん本文中にも実名が登場しますし、中学校の卒業アルバムから顔写真まで転載されています。出版当時、すでに元少年は28歳になっていましたが、少年法の規定では「犯時少年」の場合、氏名その他本人を特定させるような記事や写真の掲載が一律に禁じられています。

すなわち、少年法61条は「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であること推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」と規定しています。除外規定や例外規定などはありませんから「一律禁止」と考えるのが一般的な解釈でしょう。

「社会復帰」のチャンスがない場合は、少年法の配慮は必要ない?

ただ、この少年法61条は、将来性のある少年の名誉やプライバシーを保護し、将来の改善更正を阻害しないようにという配慮に基づくものだと言われています。そうだとすると、「将来の改善更正」が期待できない場合には、そのような配慮も必要がないとの結論になってしまいます。その極端な例が「死刑囚」の場合だと言えるでしょう。死刑囚には、もはや「社会復帰」のチャンスがないからです。

この点、元少年の死刑が確定した時点で、NHKや読売新聞、朝日新聞、産経新聞など、多くのマスコミが実名報道に切り替えました。その理由としては、やはり、死刑判決の確定により少年法が守ろうとしている社会復帰の可能性や更生の機会が無くなることが挙げられています。これに加えて、国家により生命を奪われる死刑の対象者が誰であるかは重大な社会的関心事だとする意見もありました。

また、元少年の賠償請求を退けた広島高裁判決は、元少年の顔写真の掲載について、本人の明確な承諾はなかったが、死刑が確定した元少年への社会的関心が高いことなどを考慮すれば「報道の自由」として許されるとの判断をしています。たとえ「犯時少年」であったとしても、無限定に「加害者のプライバシー」が擁護されるわけではなく、その意味では少年法61条は必ずしもオールマイティではないという考え方に基づくようです。

少年法の理念の希薄化は避けらない時代に

そもそも少年犯罪の報道をめぐっては、凶悪犯に限り実名報道すべきであるという根強い意見があります。その根拠としては、凶悪な人物の氏名が伏せられていると、将来、無辜(こ)の市民が犯罪から身を守れないとか、被害者は実名をさらされるのに加害少年だけが法によって守られるのはおかしい、といった理由が挙げられています。

昨今の刑事事件の厳罰化の流れの中で、少年法の理念の希薄化も、もはや避けられない時代に入った感があります。

(藤本 尚道/弁護士)

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