企業の従業員の発明には自由発明と職務発明に分かれる
高輝度青色発光ダイオードの研究に対するノーベル賞受賞をめぐって、職務発明の扱いが注目されています。まず、現行制度を整理すると、企業の従業員の発明には自由発明と職務発明の二種類に分かれます。
自由発明というのは、本来の職務とは全く関係のない発明、例えば、「銀行員が趣味で発明した新しい釣り具」といったものです。これは、当然ながら、その銀行員が全面的に権利を持っています。たとえ、企業がその従業員のした自由発明についてまでも、自動的に企業に帰属させるような契約を事前に結んでいても無効です。
一方、職務発明は、会社の業務範囲に属し、発明行為がその従業員の職務に属する(または属した)発明です。発光ダイオードの製造を行うメーカーが、その研究員に青色発光ダイオードの研究をさせた結果、生み出された発光ダイオードに関する発明は、典型的な職務発明です。
現行法では、職務発明であっても権利はとりあえず従業員のもの
そして、この職務発明の権利関係には、二つの制度設計があり得ます。第一は「職務発明であっても発明に関する権利は従業員のものだ」という制度。第二は「職務発明である以上、発明に関する権利は、はじめから会社のものだ」という制度です。現行法は前者。つまり、職務発明であっても、その権利は、とりあえず従業員のものです。ただし、企業には通常実施権が与えられます。また、雇用契約等で権利が自動的に会社に移転する規定を設けることは構いません。実際、少なくとも研究開発が日常的に行われている企業では、研究職についてはそうした規定があり、結果としては、発明に関する権利は企業に移転するシステムになっています。
もっとも、この場合、従業員には「相当の対価」の支払を受ける権利があります。つまり、いくらかはもらえるわけです。しかし、いくらが「相当の対価」なのかは非常に悩ましい問題です。
日本の特許法の規定は、「はじめから会社のもの」に改訂?
革新的な発明を促進したいのであれば、そのような発明をした従業員に高額な金銭を支払えば良いのかもしれません。しかし、革新的な発明と言っても、研究テーマの設定は、一般的に企業の方針によるものですし、研究のための設備は通常、企業が負担します。また、多くの失敗例の中で成功例は生まれます。企業は、そのトータルなバランスの上で収益を上げています。さらに、従業員としても、お金だけが研究の目的ではないでしょう。
職務発明に関する日本の特許法の規定は、上記の第二の制度の方向に改定される流れのようです。もちろん、この場合でも報奨金規定を必須とするなど、何らかののインセンティブを確保するようです。そうでもしないと優秀な研究者の海外流出につながりかねません。
(小澤 信彦/弁理士)