意見の分かれる「女性登用の数値目標化」
政府が掲げる「2020年までに管理職における女性の割合を30%まで引き上げる」という目標の達成に向けて、大企業に対して女性登用の数値目標の公表を義務付ける方向性で検討がなされています。9月末に労働政策審議会(厚労相の諮問機関)が、数値目標の義務付けを見送る報告書をまとめましたが、それから一転する形となりました。
労働政策審議会としては、「業種や企業によって事情が違う」「安易な数合わせになる」という経営者側の意見を取り入れ、数値目標は見送りという見解を示したわけですが、政府側は「それでは女性登用が進まない」とし、今回の再検討になりました。「女性活躍」という方針の必要性は、おおむね社会で認知されていますが、それを数値目標として義務付けることに関しては、意見が大きく分かれます。
最終的な決定には至っていませんが、大企業に対しては女性登用の方針や取り組みを「行動計画」として公表を義務付け、さらに、その行動計画には管理職に占める女性比率の数値目標を盛り込むことが義務付けられる見込みです。また、以前から議論のあった、すべての企業に「女性管理職30%」などの数値目標を一律に課すことは見送られる方向です。中小企業については、努力義務となりそうです。
数値目標の達成のために「原理原則」が破られては意味をなさない
数値目標の是非について意見が分かれるのは、数値目標が「独り歩き」してしまうと、本来の目的が見失われる可能性があるからです。人事における原理原則は、「性別や年齢などに関わらず意欲と能力に応じて活躍の場が与えられる」という、とてもシンプルなものです。そして、「女性活躍」という方針が必要な理由は、少子高齢化による労働力人口の減少という社会的課題があるにも関わらず、女性という理由で活躍の場が限定されるという現象が実際に存在していて、人事における原理原則が実現されていないからです。
私の経験上、「女性は管理職に向いていない」という偏見は、まだまだ存在していますので、意欲と能力に応じて性別に関わりなく活躍の場が与えられる環境をつくるために、女性登用の数値目標は一つのきっかけにはなるかと思います。しかし、数値目標の達成のために原理原則が破られる、つまり数合わせで女性を登用するようなことが起こるのであれば全く意味がありません。そういう意味では、今回の「女性登用の数値目標化は義務付けされるが、女性比率は企業の自主判断」という方向性は、落とし所としては良いのではないでしょうか。しかし、原理原則を忘れてはならないことは、肝に銘じておくべきだと思います。
(福留 幸輔/組織・人事コンサルタント)