4球団の監督が辞任。新しい監督全員が内部昇格
プロ野球では、「セントラル・リーグ クライマックスシリーズ」を予想外の勢いで阪神タイガースが勝ち上がり、日本シリーズでの福岡ソフトバンクホークスとの決戦が注目されていますが、その裏で広島東洋カープ、東京ヤクルトスワローズ、埼玉西武ライオンズ、東北楽天ゴールデンイーグルスの4球団の監督が辞任し、新たな監督が就任しています。今回、その4球団の新しい監督全員が、同じ球団のコーチや二軍監督、監督代行などから抜擢された内部昇格でした。
企業でもトップが交代する時、社内からの昇格と、社外から招へいされる場合があります。先般のサントリーホールディングスの次期社長に新浪剛史氏が抜擢された時のように、大きな話題になるのは新しいトップが社外から抜擢されたケースでしょう。新しいトップの知名度が高ければ高いほど、注目度は大きくなります。社内からの昇格人事は、どちらかと言うと地味な印象を与えますが、いわゆる「生え抜き」がトップに就任することのメリットは当然に存在します。
「安心感」が内部昇格の最大のメリット
最も大きなメリットは、「安心感」です。その企業のことを知り尽くしている人物がトップに就任することで、安定した企業経営を期待できます。また、そこで働く社員の立場からしても、よく知っている人物がトップになるというのは安心感があるでしょう。「自分も頑張ったらトップになれるかも」というキャリアパスを示すことができるという点もメリットの一つでしょう。
視点を変えれば、企業というのは人間関係の坩堝(るつぼ)ですから、社内の人的資源を最大限に活用しようと思えば、社内人脈の量と質を高めていく必要があります。そういう意味で、内部昇格によるトップ人事は、その企業の人的資源を活かした経営を行なえる可能性を秘めています。また、その企業に関係するステークホルダーの立場で見ても、実績がある人物が企業の舵を取ることは、今までの関係性を持続できるという意味で安心です。
JALや日産に学ぶ内部昇格が適さないケース
しかし、当然ながら、内部昇格人事はメリットばかりではありません。そもそも、メリットだけしかないという施策は存在しませんが。
例を挙げるとわかりやすいと思いますが、例えば2010年にJALが破たんした際、もし内部昇格でトップが入れ替わっていたら、JALは再建できたでしょうか。実際には会社更生法による再建のため、JALの新しいトップが内部昇格で登用されることはまずなかったことですが、稲盛氏のような外部の血が入らなければ難しかったでしょう。古いところでは、カルロス・ゴーン氏を新しいトップに迎えて再建した日産も、ゴーン氏ではなく内部昇格だったら今はどうなっていたか想像がつきません。
つまり、企業が長期的な停滞を打破できずに危機的状況に陥った時には、内部昇格によって就任したトップでは、現状を打破する可能性は低くなります。それは、人間関係のしがらみなどによって「大鉈を振るう」ことが難しいからです。したがって、内部昇格も外部からの招へいもどちらも結局は一長一短です。企業の状況を多角的に分析した上で、誰をトップにするのかを慎重に決める必要があるということです。
(福留 幸輔/組織・人事コンサルタント)