進学時不適応問題に対して自治体は小中一貫教育を実施
政府の教育再生実行会議は、今年7月にまとめた第五次提言に、子どもの発達に応じた教育の充実やさまざまな挑戦を可能にする制度の柔軟化など、新しい時代にふさわしい学制を構築するため、「小中一貫教育学校の制度化」や「5歳児義務教育化」「6-3-3制」の見直し検討などを盛り込みました。
いわゆる「小1プロブレム」や「中1ギャップ」など、進学時不適応を巡る問題は以前から指摘されていました。その対策として、既に全市区町村の12%に当たる211自治体が9年間を通じ、教育課程を編成して系統的な教育を目指す小中一貫教育を実施しています。
大人の管理上の都合から学年を固定することに無理がある
この背景には、「6・3・3の区切りが成長の早まる子どもの実態と合わなくなってきた」という認識があるようですが、6-3制から4-3-2または5-4への変更や小中一貫教育、幼保小連携などを実施することが、果たして本当に「子どもの発達に応じた教育」を実現することになるのでしょうか。
本来、子どもの能力や可能性は千差万別ですから、一人ひとりの学力や性格、目標、興味などを一切考慮せず、6歳になれば全員一律で小学生、12歳で中学生というように、大人の管理上の都合から学年を固定すること自体に、そもそも無理があります。
集団画一教育はもはや時代遅れ
例えば、九九の計算は小学2年生の算数で学習することが学習指導要領で定められていますが、小学1年生ですでにマスターしている子どももいれば、逆に3年生になっても完全に憶えられない子どももいます。また、同じ一人の生徒でも、「標準」と比較して国語は得意だけれど算数は苦手などというように、科目によっても習熟度が異なることのほうが自然です。
さらに、柔道、剣道、空手、お茶、お花、習字、そろばんなど、伝統的な習い事はどれも年齢で級や段が決まるのではなく、実力本位で昇級・昇段します。同じ道場や教室の中に70歳で3級の人もいれば、7歳で3段などということもあり得ます。
にもかかわらず、学校教育だけは100年以上前から年齢だけを基準に学年分けされ、それを当然のこととして受け入れてきたのです。確かに、戦時中は従順な軍人、戦後は勤勉なサラリーマンを大量生産するには集団画一教育が効率的でしたが、政治・経済・社会など、あらゆる面で多様化した21世紀にはもはや時代遅れです。
個別カリキュラムを実施しない限り本質的な問題は解決されない
単に小中一貫にして6・3から4・3・2などへ学年制を変更してお茶を濁すのではなく、多様化した現代に生きる子どもたち一人ひとりの学力や関心にぴったり合致した個別カリキュラムを実現しない限り、進学時不適応問題の本質的な解決にはなりません。
時代に見合った個別教育を提供することは大人の責任であり、映像授業やICT機器を駆使することで実現可能です。効率性の観点から大人が勝手に年齢別の「標準」を規定し、その標準帯域に該当しないという理由だけで「落ちこぼれ」「劣等生」「学習障害」などと一方的にレッテルを貼るのは全く筋違いの話です。
大人の都合に子どもが合わせるのではなく、子ども一人ひとりの能力や目標に大人が合わせて指導をすれば、それぞれの子どもが持つ潜在力を開花させることは十分に可能です。そろそろ、学年制度を全面的に撤廃して時間割を自由化し、子ども一人ひとりの能力、目標、興味、関心に合わせてカリキュラムを組む完全個別教育を実現させませんか。
(小松 健司/個別指導塾塾長)