安倍首相から「年功序列型賃金体系見直し」発言も
今、年功序列を廃止に踏み切る、または検討を始める企業が増えています。日立やパナソニックといった日本を代表する企業の決断が大きく報じられたことは記憶に新しいところです。10月22日には、安倍首相から「子育て世代や非正規労働者の処遇改善のため生産性に見合った賃金体系への移行について、政労使で共通認識を醸成していきたい」という、「年功序列型賃金体系見直し」発言もありました。
そもそも日本的雇用慣行とは、終身雇用・年功序列制・企業内組合(いわゆる三種の神器)を基本とした経営をいいます。そして、年功序列制とは、学歴・年齢・勤続年数などを中心とする経営社会秩序のことです。年功序列制が慣行となった背景には、従業員が長期勤務することにより能力開発が可能となり、年の功で従業員を処遇しても何ら不都合が生じなかったということがあります。また、この年功序列制の根底をなすものとして、年齢・勤続・経験年数のいずれか、また、組み合わせによって賃金を決定する属人給が普及していました。
揺らぐ終身雇用。年功序列のデメリットも指摘
しかし、非正規雇用の増加、労働時間の二極化、ライフスタイルの多様化、日本を取り巻く経済情勢、労働者の意識変化、企業のコスト削減意識などから日本的雇用慣行は当てはまらなくなってきているのも事実です。
上記でも述べたように、年功序列制の前提にあるのは終身雇用です。しかし、法制上は終身雇用はありません。ただ、慣例的に「期間の定めのない労働契約は原則として定年まで雇われるということ」と認識されて来たため、いつしか終身雇用が当たり前になっていました。しかし、諸外国では定年まで同一の会社や組織に属するのは稀であり、業務やプロジェクト毎に職場を移ることは珍しくありません。また、年功序列制の下では、若年者や子育て世代の賃金が低く抑えられ、若年層のモチベーション低下の要因になっているとも指摘されています。
脱・年功序列は自然な流れ。むしろ公平な競争原理の働く世の中に
現代は、業務が高度化、複雑化されてきており、単に勤続年数が長いから仕事を上手く処理できるとは言い難くなってきています。それに、バブル崩壊後の不況下で終身雇用が幻想であったことが国民の中にも浸透してきており、企業への忠誠心もかつてほどではなくなっています。世界的な潮流を考えると、むしろ日本の年功序列制の方が特異な制度といえるでしょう。安倍政権が「生産性に比した報酬を」ということで、多方面から見直しをかけている現状から考えると、年功序列制が無くなっていくのは自然な流れと思われます。
そして、個人においても自己研鑚や自己啓発に対する努力や責任が大きくなることは想像に難くありません。むしろ公平な競争原理の働く世の中になると言っても過言ではないでしょう。
(佐藤 憲彦/社会保険労務士)