日銀、大幅な追加の金融緩和を決定
日本銀行は10月31日の金融政策決定会合で、マネタリーベース目標額を「年間約80兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」として、従来の「年間約60兆~70兆円」から引き上げました。長期国債の買い入れを「保有残高が年間約80兆円に相当するペース」に増やすほか、指数連動型上場投資信託と不動産投資信託の買い入れを「それぞれ年間約3兆円、年間約900億円に相当するペース」に拡大。
従来の長期国債は「保有残高が年間約50兆円に相当するペース」で、指数連動型上場投資信託と不動産投資信託の買い入れはそれぞれ年間約1兆円、同約300億円に相当するペースで買い入れを行っていたので、大幅な追加の金融緩和となります。
この追加の金融緩和の決定を受け、31日午後には円安と株高が急速に進むこととなりました。為替は6年10か月ぶりに$1=112円台の円安となり、日経平均株価は一時800円以上も上昇しています。日銀の黒田総裁は、今回の金融緩和の理由として「デフレ脱却が遅れるリスクを未然に防ぐため」とコメントしました。
景気が良くなる過程で物価上昇は避けては通れない
さて、このような金融緩和は、私たちの生活に次のような影響をもたらすものと予想されます。
まず、物価の上昇です。これは、追加の金融緩和の目的が、インフレターゲット2%の達成にあることからの当然の帰結です。物価上昇は「悪」という論調が多いですが、景気の面からみると、必ずしもそうではありません。むしろ、景気が良くなる過程で物価上昇は避けては通れないのです。
お金が大量に世の中に出回るようになると、お金の価値が下落して物価は上昇します。物価が上昇すると予想すれば、現金や預金を投資や消費に回そうという動きになります。例えば、今年1千万円の土地が値上がりして、来年2千万円になることが予想されるならば、来年は1千万円では買えなくなってしまいますから、今年中に土地を購入しようとするでしょう。モノに対する需要が増えると、物価はさらに上昇します。これはそのまま景気拡大のプロセスです。
しかし一方で、物価の上昇は円の価値の下落、いわゆる円安を加速させます。円安になれば輸出企業にとっては有利ですが、輸入する原材料価格は高騰します。そのため輸入企業はもちろん、家計にもマイナスの影響を与えることとなります。円安によるインフレは、需要の拡大ではなく、単に原材料価格が上昇しただけです。そのため、物価が上昇しても賃金のアップや経済の成長にはつながらないといわれています。
株高により、将来の年金に対する不安減少に期待
次に、株高は株式を保有する人の消費拡大意欲を刺激します。実際に売却してキャピタルゲインを得た人はもちろん、売却しないで含み益を抱えているだけでも消費意欲は高まります。また、31日には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がポートフォリオの見直しを発表しています。国内債券を60%から35%へと大幅に減らす一方、国内株式は12%から25%へと引き上げられ、海外資産も計40%と大きく増えました。株高により、将来の年金に対する不安が減少すれば、消費にも影響が出てくることが期待できます。
以上のように、プラスの面、マイナスの面それぞれあるので、トータルでどちらになるかは一概にはいえません。ただ、いずれの場合であっても消費の動向からは目が離せないでしょう。
(西谷 俊広/公認会計士)