使用者が後を絶たない「危険ドラッグ」。現在は主に薬事法で規制
脱法ドラッグ、違法ドラッグ、危険ドラッグと、名称を変えて危険性を強調してきた「危険ドラッグ」ですが、使用者が後を絶たず、販売店が摘発されたり、ドラッグの影響を受けた使用者が重大な事故を引き起こしたりしています。 これだけ危険といわれてきている危険ドラッグを、なぜ法律で全面禁止できないのでしょうか。
危険ドラッグの規制は、現在は主に薬事法に基づいて行われています。厚生労働省が省令により指定した指定薬物については、無承認無許可医薬品に該当することになり、これを無承認無許可で販売したり広告したりすると、薬事法に基づく処罰の対象となります。また、販売した側だけでなく、指定薬物を購入したり所持したりした場合にも、同じく処罰の対象となります。
規制が広がる中、危険ドラッグを流通させる側の手口も巧妙化
以前は、指定薬物を個別に指定する制度しかなく、これを繰り返していたため、「いたちごっこ」でした。そこで、2013年、「包括指定」という制度を導入し、化学構造が似ている物質を包括的に指定できるようにしました。
さらに、2014年には、販売する側を処罰するだけでなく、指定薬物の所持や使用にも罰則を設けることとして、処罰を受ける人の範囲を広げました。最近では、薬事法による規制に類似した形で、各都道府県単位で条例による規制をしているところもあります。
このような規制により、以前に比べればかなりの効果が期待されます。 しかし、いくら包括的な規制といっても、新たな薬物は必ず生み出されるため限界があります。物質の化学構造を変えてしまえば、包括的な指定の対象から外れてくるものも出てきてしまうでしょう。 また、薬物を混ぜて検出を難しくさせたり、検出しにくくなるような物質を混ぜたりするなど、危険ドラッグを流通させる側の手口も巧妙化してきています。
規制を闇雲に強化すれば、正当な医療行為に影響が及ぶ恐れも
では、規制対象をもっと広げて、似ている薬物を全て包括規制の対象としてしまえば良いかというと、そうもいきません。 実は、危険ドラッグは、正当な医療行為として使用されている向精神薬や麻薬と化学構造が類似しているものが多いのです。規制を強化してしまうと、今後、正当な医療行為のために開発しようとする新薬も規制対象となってしまう可能性があります。
また、規制の対象を広げれば、対象が医薬品だけの話で済むとは限りません。今後、対象となる物質を増やしていけば、医薬品ではない利用方法をしている物質も規制対象となり、予想外の影響を受けてしまう可能性も出てくるわけです。
規制は確かに必要ですが、規制も方法を間違えてやり過ぎると、思わぬ別の問題を引き起こしてしまう恐れがあります。 危険ドラッグの問題は、こうした法律による規制の難しさを私たちに示しているともいえるかもしれません。
(川島 英雄/弁護士)