港区高輪の泉岳寺でシンポ、景観を守る法制度の必要性を訴え
マンション建設計画に近隣住民らの反対運動が起きている港区高輪の泉岳寺で「寺社と景観を考えるシンポジウム」が開かれました。そこで、歴史的な景観を守る法制度の必要性や泉岳寺の価値保全を「泉岳寺宣言」としてまとめたそうです。
我が国には、景観を保護するために景観法という法律があります。平成16年6月に公布され、同年12月に施行されたものですが、それまでは500弱の地方自治体が自主条例を制定するなど、自治体において景観の整備や保全の取組みを行っておりました。しかしながら、地域の自然、歴史、文化等の固有の特性のもとに形成されてきた街並みなどの景観も、高度成長期以降、これを無視する形で建てられる建築物等によって損なわれることとなったため、平成に入ってからというもの、国自身が自ら発注する公共工事において景観への配慮を重視するようになっていったようです。
そして、自主条例で景観を損ねる建築行為等を規制するとしても、届出勧告等のソフトな規制に過ぎないことから規制手段としては限界があり、国の支援も不十分だったことから景観を正面から捉えた基本的な法制を整備し、(1)景観を整備・保全するための基本理念を明確化すること(2)国民・事業者・行政の責務を明確化すること(3)景観形成のための行為規制を行う仕組みを創設すること(4)景観形成のための支援措置を創設することなどにより、景観の意義や整備・保全の必要性を明確にし、自治体にいざというときのための強制力を付与することが必要と判断されて景観法が制定されるに至りました。
事業者や住民の間に利害対立を生じさせてしまう
この景観法自体が、景観を保護するために建築行為等を直接に規制するというものではなく、自治体の策定する景観計画や、住民の合意による景観協定等について、その実効性を確保するために強制力を持たせるという仕組みになっています。
景観法の基本理念の中では「良好な景観の形成は、現にある良好な景観を保全することのみならず、新たに良好な景観を創出することを含むものであることを旨として行わなければならない」「良好な景観は、観光その他の地域間の交流の促進に大きな役割を担うものであることに鑑み、地域の活性化に資するよう、地方公共団体、事業者及び住民により、その形成に向けて一体的な取組みがなされなければならない」ということも謳われていますが、地域の事業者や住民全体に共通の認識ないし価値観がないまま、新たな景観形成を進めることなどできようはずがありません。規制に強制力があるということは、経済活動に制約がかかるということですから、事業者や住民の間に利害対立を生じさせてしまうであろうことは、想像に難くありません。
景観法の実効性そのものにも懸念がある
そうすると,価値観が多様化している現代社会において、この景観法に基づく自治体の取組みをどこまで強制力をもって進めることができるのかということは、実は非常に難しい問題を含んでいるという他ありません。
よほど歴史的、文化的な背景に根差した地域であるならいざ知らず、そうでない場合には、実効性そのものにも懸念があるといえるのではないでしょうか。
(田沢 剛/弁護士)