傷病手当金を受給した中で、精神疾患の割合が増加
全国協会健康保険のデータによれば、平成23年に傷病手当金を受給した中で、精神疾患の比率が26.31%と最も多くなっています。傷病手当金を受給している人の中で、実に4人に1人となる計算です。
平成7年には4.45%と20人に1人だったのに対し、いかに急激に精神疾患の人が増えているかがわかります。そこにはさまざまな理由がありますが、バブル崩壊後のリストラにより若者の非正規労働が増加したこと、残った社員も減員になった分の仕事が減らず、1人1人の仕事量が増加したことなどで、雇用不安が広がったことが大きな原因と考えられます。
2015年12月から「ストレスチェック」が義務化へ
このような背景もあり、今年の6月19日に労働安全衛生法が改正され、2015年12月より、常時使用労働者数が50人以上の企業で、従業員に「ストレスチェック」を行うことが義務付けられました。従業員自身が自己点検を行い、結果については企業には通知されません。あくまで従業員本人に対しての通知となり、その結果を受けた従業員は企業に申し出て、医師の面談を受けることができます。
企業側は従業員に対し、この申し出を行ったことを理由に不利益な取り扱いをすることが禁止されています。さらに、医師が本人の同意を得てその指示の下、労働時間の短縮や負担の少ない仕事への転換などが必要な場合、企業は必要な措置を行わなければなりません。
「義務化」における中小企業の対応には課題が残る
しかしながら、大手企業は対応可能でも、中小企業においてはそもそも時間を短縮するような仕事や負担の少ない仕事がない、ということもあり得ます。すると、就業規則上の「身体又は精神の不調により業務に耐えられないと認められるとき」に該当するとして、普通解雇にされてしまう可能性があります。そのようなリスクがあるので、本人の同意なしに企業には知らせないということもあるようです。
精神疾患も早期に発見して対応すれば、悪化せずに仕事にも復帰できる確率が高いとされます。これだけ精神疾患による傷病手当金の受給者が増加し、仕事から長期離脱してしまうことは社会にとっても大きな損失です。従業員が気楽に企業に申し出られるよう、社会全体として考えていくことが肝心です。
例えば、中小企業で労働時間の短縮を余儀なくされた従業員が出た場合、しっかり対応した企業に対して、何らかの優遇措置を国としても行う必要があるでしょう。長期離脱による傷病手当金の給付、働けず賃金を得られないため所得税も入ってこない、という社会的な損失よりも、事前にそのような状態にさせないようにするために社会保険料や税金を使用する方が、より効果的ではないでしょうか。
(影山 正伸/社会保険労務士)