幼児1000人に2.2人の割合で虐待は起こっている
近年、子どもへの虐待が増加していると言われています。餓死した子どもが見つかった事件など、痛ましい事例を含め、ここ数年で悲惨なニュースをいくつも耳にした気がします。
虐待を受けている子どもの多くは乳幼児、就学前の児童です。厚生科学研究によると、6歳未満の幼児1000人に2.2人の割合で虐待が起きているとの推計もあり、虐待が決して稀なものではなく、身近に起きていると考えられます。こうした児童虐待やネグレクト(育児放棄)を早期に発見するため、子どもの歯と「歯科医の観察眼」が注目されています。
子どもの異変に気付ける歯科医師ならではの特性
歯科医師はこの年齢の子どもたちの虐待を早期発見できる理由として、以下のような優位性を持っています。
●1歳6ヶ月健診、3歳児健診などの機会を通じて、子どもと親の両方と接触できる
●虐待行為が隠ぺいされていても、口の中の状況から推測できるケースがある
●診療室では保護者などの付添者を退室させて歯の治療を行うことから、子どもをよく観察し、聞き取りが可能である
診療を通して歯科医師や歯科衛生士がいち早く子どもの異変に気付くことができれば、虐待の可能性を関係機関に通報し、早期発見や再発防止に繋がります。では、実際にどのような点に注目して虐待を見つけるのでしょうか。
目立つ暴力の痕跡がなくても、虫歯の多さが手がかりに
暴力による虐待被害を受けている子どもの所見としては、
1.不自然な怪我、傷、やけど、あるいは歯が折れているなど
2.同じような怪我ややけどを何度も繰り返す
3.不潔な服装
4.低体重、低身長
といった特徴が指摘されています。しかし、こうした顕著な虐待をしている親は虐待行為を隠蔽する、あるいは全く無関心なために、歯科や小児科を受診すること自体があまり無いようです。
そんな中、目立つ暴力の痕跡がなくても、軽度の虐待やネグレクトの場合には、一言で言えば「虫歯が多い」傾向にあります。虐待を受けた子どもたちの歯の状態は劣悪で、8歳の一般的な子どもの虫歯の本数は平均0.2本であるのに対し、虐待されている子どもでは平均3.0本、すなわち15倍多いとするデータや、育児放棄された児童(12歳)では、大部分の永久歯が虫歯だったとする調査結果も報告されています。
歯科医師の小さな気付きが虐待の芽を摘み取る
また、保護者に担当医から治療内容や注意事項を説明しても無関心だったり、同伴すらしなかったりという事例の場合も児童虐待を疑うべきとされています。
単純に「虫歯が多い=虐待」と決め付けるのは短絡的で、体格や発育状況だけを見て先入観を持つのも避けるべきですが、歯科医師の小さな気付きやおせっかいが、もしかしたら暴力へとエスカレートしていくかもしれない虐待の芽を見つけることになるかもしれません
(飯田 裕/医学博士・歯科医)