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女子アナ内定取り消しは妥当か?問題の論点

JIJICO 2014年11月17日 12時0分

入社予定の一般人が自分の雇用を迫る前代未聞の裁判

「テレビ局に来春アナウンサーとして入社予定だった女子大生が、内定を取り消され、しかもその理由が不当で裁判沙汰になっている」という報道がありました。報道によると、「原告は、来年の4月1日付でテレビ局に就職する予定の、いわゆる『採用内定者』であったが、テレビ局側は今年5月28日付の『内定取消通知書』をもって、一方的にその採用内定を取り消したとのこと。その結果、原告は『来年に入社する権利がある』ことを確認する訴訟提起をしたというものです」

つまり、一度はテレビ局から内定をもらっていた女子大生が、その内定を取り消されたため、裁判を起こしたのです。入社予定だった一般人が自分の雇用を迫ってテレビ局を訴えるという前代未聞の裁判であり、今後、世間の注目を集めると予測されます。

内定取り消しには労働者を解雇する時に近い要件が求められる

前提条件として、この内定というものの、法的な効果について簡単に確認しておきます。採用内定とは、法的には「始期付・解約権留保付労働契約」といいます。労働契約といっても実際に雇用契約が始まるのは翌年度の4月(これを始期付といいます)であり、さらに学校を卒業できなかった場合・やむを得ない場合などには内定を取り消すことができる(これを解約権留保付といいます)契約という意味です。

難しい言葉が労働契約の前に二つも付いていますが、労働契約であることには違いなく、取り消す場合には通常の労働者を解雇する時に近い要件が求められます。

内定を取り消すほど重大な事由であると認められる可能性は少ない

今回の内定取り消しが有効と判断されるには、「採用内定の取り消し事由が、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できるものに限られる」(大日本印刷事件)となっています。

つまり、今回報道された採用内定の取り消し事由である、「母親の知り合いが経営する銀座の小さなクラブで、短期間アルバイトをしていたこと」が、内定取り消しに相当するほどひどいことだと社会的に認められるか否かが論点となります。

しかし、私は、短期間のクラブでのアルバイト程度では、内定を取り消すほどの重大な事由であると認められる可能性は少ないと考えます。そして、仮に原告が裁判で勝訴した場合、女子大生の内定取り消しは無効となり、結果として会社へ入社することになります。その先のストーリーは二つです。

内定取り消しは学生に与える影響があまりにも大きい

一つは、訴訟してまで入りたかった会社ということで、場合によっては「訴訟アナ」など、自身の経験を生かしてバラエティー番組等で頑張ることです。法的には、社員が訴訟したからと言ってすぐに配置転換することは、権利の濫用と見なされるため、会社側もすぐに女子アナから他の部署に異動させることもできないでしょう。女子アナとしての実力を、会社に認めさせるという方法です。

もう一つは、今回の取り消しの結果、得られたであろう機会の損失(内定が出ていなければ、他のテレビ局の選考を受けられたはず)や精神的苦痛についての慰謝料や和解金を求め、現在の会社とは和解し、別の道を進むという方法です。

いずれにせよ、現在の新卒一括採用というシステムをとっている日本社会において、内定取り消しというのは学生に与える影響があまりにも大きく、企業も慎重に行わなければいけないという教訓になりそうです。

(植田 健太/臨床心理士・社会保険労務士)

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