衆議院解散で懸念されるアベノミクスの今後
11月21日、正式に衆議院が解散され、12月14日の投票結果によって新たな政界の勢力図が決定します。この選挙の争点は、消費税引き上げの是非を問うのではなく、アベノミクスを今後続けていくべきかどうかを問う様相に変わってきました。
アベノミクスの語源は1980年代、米国のレーガン大統領が新古典経済学に基づいた政策をレーガノミクスと呼んだことに由来していると思われます。この根本的政策理念は、小さな政府を標榜し、経済の活性を民間活力に委ねたものでした。さらに、トリクルダウン理論により「富める者がより富めば、貧しいものにも自然と富が滴り落ちる」というサプライサイド経済学の思想に基づく考え方と言えます。
消費税増税は一般庶民にとって大きな痛手に
アベノミクスは、金融緩和・株高・円安から企業業績が上昇して賃金もそれに伴い上昇。また、雇用創出が生まれることで消費性向と物価も上昇し、さらなる企業業績向上という好循環の景気浮揚サイクルを作ることが目的でした。しかし、ここでの最大の誤算は、賃金上昇が発生する前に物価上昇が始まったことです。
なぜなら、円安が食料品、エネルギーなどの輸入物価を引き上げ、これが2000年以降継続的に下落している実質賃金(デフレーターに消費者物価指数を使ったもの)の下落に大きく貢献しているためです。安倍首相が就任した2012年12月以降も下がり続けている現状に加え、今年4月の消費税アップは一般庶民にとって大きな痛手となりました。
「富裕層」や「超富裕層」の割合が増加
一方で、野村総合研究所は11月18日、2013年の純金融資産保有額別世帯数と資産規模の推計を発表しました。それによれば、純金融資産保有額1億円以上5億円未満の「富裕層」と5億円以上の「超富裕層」の合計世帯数が100.7万世帯になり、前回調査の2011年と比較すると、「富裕層」は25.4%増、「超富裕層」は8.0%増、合計で24.3%増となりました。
その理由は、2011年当時に「準富裕層」だった世帯のかなりの割合が、この2年間に資産を増やしたことによると推測されます。これは、明らかにアベノミクスにより恩恵を受けた層です。もちろん、富裕層全てが株を所持しているわけではありませんが、仮に安倍政権が始まった2012年12月に日経平均の株を約900万円買っていれば、今現在約1,700万円とおよそ2倍に資産が増えたことになります。
一般庶民と富裕層とで効果は全く異なるものに
もちろん安倍首相は、アベノミクスを遂行することによって、景気全体の好循環の流れをつくろうと努力していることは間違いありません。しかし、一般庶民への効果と、富裕層への効果は全く異なるものになっています。好むと好まざるとに関わらず、所得格差だけでなく資産格差も生じ、このままでは日本国民が一部の「勝ち組」と多くの「負け組」に分かれる世の中に変わってしまいます。
なぜなら、富裕層には「お金がお金を生む仕組み」が備わっているからにほかなりません。富裕層はレバレッジの効いた経済効果を享受し、一般庶民には好景気の実感が伴わない政策となる可能性が高いと言えます。さらに、消費税の附帯条項を外すため、2017年4月に安倍政権が続いていれば、景気に関係なく必ず消費税は上がります。「トリクルダウン理論も働かず、消費税が上がる」というような状況は、何が何でも避けなければなりません。結果次第では、日本版「ウォールストリートを占拠せよ」が起きることも絵空事ではなくなるかもしれません。
(中村 伸一/ファイナンシャルプランナー)