厚労省の人口動態調査で驚くべき死因の順位が
2014年度の厚労省の人口動態調査では、年齢階級別(5年毎に区切っている)の死因の順位をまとめています。驚くべきは「15~19歳」から「35~39歳」までのすべての年代層において、死因トップは自殺となっていること。青少年期から社会的には管理職にさしかかる、まさに上り坂にいる年代です。
しかし、少し注意してデータを見ていくと、「40~44歳」「45~49歳」では2位、「50~54歳」で3位、「55~59歳」「60~64歳」で4位と年齢が高くなるにつれて自死による死亡率は下がってきます。これは、年齢を重ねるに従って病気による死亡率が自死によるそれを上回って来るからです。
しかし、自殺者総数そのものは減り続けている
平成26年度版自殺対策白書(内閣府)によれば、日本人の総合的な死因の順位は、2014年度では、1位:悪性新生物、2位:心疾患、3位:脳血管障害、4位:肺炎、5位:不慮の事故、6位:自殺となっています。当然といえば当然のことですが、やはり病気等が多いわけです。死因の経年変化のグラフでは、悪性新生物、心疾患、脳血管障害が、いずれも30度ほどの急勾配でほぼ平行に右肩上がりに上がって来ています。食生活を始めとする生活の欧米化の影響があるでしょう。
これと対照的に、自殺、不慮の事故(天変地異等の影響により、波は加わる)、肝疾患、結核は、ほぼ横ばいで上下の揺れは小さいのです。特に自殺による死亡率は、平成15年あたりからかすかに減少し続けています。かつ自殺者総数そのものは平成10年に大きい上昇を見た以後は、平成22年以降、減り続けていますし、何より年齢階級別自殺死亡率は多くの年代で平成21年以降減少傾向にあるのです。それと、平均余命は年々延びて来ているわけです。
日本の競争社会が若い世代に与える苦悩の重圧を先鋭に示している
これらのデータから、日本人の自殺は多いが、特に増えて来ているわけではないとわかります。上記の3大死因の病死は老人になるほど多く、寿命を終える成人病と言って良いかもしれません。医療の進歩により、若い世代ではますます病気による死亡率は下がっているわけですから、元々むしろ減少気味にある自殺による死因が目立って来ているのです。自殺が増えているわけではないが、日本の競争社会が若い世代に与える苦悩の重圧を先鋭に示している統計といえるでしょう。
本年度の若年層における自殺による死因が増えているかに見える変化は、むしろ医療の進歩を反映する結果といえます。かつ、とりあえず平成21年以降の日本人の自殺はむしろ減少傾向にあります。精神科医としても、少しほっとさせられるところです。しかし、これが現在ふつふつと高まり始めている社会不安の影響でどう変わっていくかは予断を許しません。
(池上 司/精神科医)