過労死防止法施行を契機に具体的なルール作りへ
11月1日、「過労死等防止対策推進法」(以下、「過労死防止法」)が施行されました。過労死防止法は、過労死等(業務における過重な負荷に起因する脳血管疾患や心臓疾患により死亡する、いわゆる「過労死」、これらに起因する精神障害を原因とするいわゆる「過労自殺」、過労死や過労自殺に至らない脳血管疾患、心臓疾患、精神障害を指します)を防止するための施策を、国や地方公共団体に推進するよう努めさせ、事業主にはその施策に協力するよう努めさせることなどを規定しています。
しかし、過労死等防止に向けた直接的な規定(例えば残業の規制等)はなく、また、罰則規定もありません。大切なのは、これを契機に過労死等の減少に向けて具体的なルール作りをすることです。
EU加盟国で義務付けられている「勤務間インターバル規制」
具体的なルールとして注目されているのが「勤務間インターバル規制」です。勤務間インターバル規制とは、時間外労働等を含む1日の最終的な勤務終了時から翌日の始業時までに、一定時間のインターバルを保障することにより従業員の休息時間を確保しようとする制度です。例えば、勤務間のインターバルを11時間と設定した場合、前日23時まで働いた人は、仮に始業時間が9時と設定されていても、翌朝10時まで勤務することを免除されるということになります。もちろん、9時の始業に遅れたからといって賃金がカットされることはありません。すでにEU加盟国では勤務間最低11時間のインターバルが義務付けられています。
勤務間インターバル規制は、過労死等の防止に非常に有効
この勤務間インターバル規制は、過労死等の防止に非常に有効であるといえます。なぜなら過労死についていえば、脳血管疾患や心臓疾患発症前1か月に100時間又は2か月から6か月の平均で80時間の時間外労働があった場合に、業務と発症との関連性が強いとされているように、長時間にわたる時間外勤務が過労死の発症因子と考えられているからです。勤務間インターバル規制が有効に機能すれば、時間外勤務の時間を一定程度減らすことが可能となります。精神疾患の原因も同様と考えられます。「働かなければいけない」というストレスを除去してあげることで心に余裕が生まれ、精神疾患にまで追いつめられる人は減少すると予測されます。
休息時間の確保義務化で労働環境の健全化促進に期待
我が国の法制度上、休息の確保を明文化したものはありません。1週間につき40時間、1日につき8時間を超えて労働させてはならない(労基法32条)という規定はありますが、決して少なくない企業がこの規定を守れていないのが現状です。
また、我が国には特有の「サービス残業」という悪しき文化が存在します。勤務間インターバル規制が広く導入されれば、休息時間を確保することを義務化するという意味で、これまでとは違うアプローチにより労働環境の健全化が促進されると思われます。
(河野 晃/弁護士)