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偽名で政権批判、公選法の虚偽表示罪に?

JIJICO 2014年12月3日 15時0分

「小4」は嘘。「どうして解散するんですか?」が波紋を呼ぶ

先般、安倍総理の衆議院解散を批判する内容のサイト「どうして解散するんですか?」が政党やメディアなども巻き込んで大きく取り上げられていました。それは、このサイトの作者が小学4年生とされていたからです。

しかし、実は、あるNPO法人の代表を務める大学生らが作っていたことが判明し、大きな波紋を呼んでいます。このように、作成者を偽って政権を批判するような内容のサイトを立ち上げた場合、何らかの罪に問われるのでしょうか。

公選法の虚偽表示罪は、落選運動のような場合にも広く適用される

今回のサイトが衆議院の解散後に、安倍政権を批判するような内容を掲載しているため、小学生がサイトを運営しているかのように偽っている点については、公職選挙法の氏名等の虚偽表示罪(法235条の5)の関係が問題になりそうです。

公選法の虚偽表示罪は次のように規定しています。「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて真実に反する氏名、名称又は身分の表示をして・・・インターネット等を利用する方法により通信をした者は、二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する」。

まず、今回のサイト内容を見ると、特定の候補者の当選を目的としているようには見えませんので選挙運動には当たらない可能性が高いです。しかし、公選法の虚偽表示罪は、選挙運動に当たらない、例えば特定の候補者の当選を妨害することだけが目的である、いわゆる落選運動のような場合にも広く適用される可能性があります。

また、この虚偽表示罪には規制を選挙期間中に限定するような定めもありませんので、公選法の買収に対する規制などと同様に、公示、告示前はもちろん、解散前であってもそれが特定の選挙に関するものであれば適用されると考えられます。

虚偽表示罪は、表現の自由に大きな萎縮的効果があり判断は慎重に

では、今回のサイトは虚偽表示罪の規定に違反するのでしょうか。まず、「当選を・・・得しめない目的」(法235条の5)として落選運動と言えるのでしょうか。

解散に伴う莫大な費用の無駄遣いを嘆くだけであればこれに当たらないでしょう。しかし、このサイトでは、安倍政権が進めるアベノミクスの効果や議員定数削減問題に対する疑問も記載されているため判断が分かれそうです。

しかし、政権批判を含めて市民の政治的な言論・表現の自由は最大限保障されなければならないというのが憲法の大原則です。この点では、虚偽表示罪は、今回の事例の検討からも明らかなように、また選挙運動でなくても、偽名などで政権批判をしただけでその適用可能性が議論されてしまうという点に、表現の自由に対するかなり大きな萎縮的効果があるように感じます。

しかも、インターネットでの選挙運動解禁に伴う改正公選法では、インターネット(SNSを含む)という市民の誰もが気軽に書き込む媒体にまでこの規制が適用されるようになったため、ネットを利用する人にはますます他人事ではないでしょう。

これらのことを考えると、今回のサイトに限らず、偽名や身分を偽った政権批判の書き込みなどが公選法の虚偽表示罪に当たるかを判断するに当たっては、相当慎重に考える必要があると思います。

政権批判などの政治的表現の自由が最大限尊重される必要がある

これは私見ですが、この虚偽表示罪の趣旨は選挙の公正を確保することにあると考えられます。だとすれば、「真実に反する氏名、名称又は身分の表示」とは、真実に反する表示をすれば何でもかんでも当たるというのではなく、その表示によって、現実に選挙の公正を害する具体的な危険がある場合などに限定するべきだと思います。

特定の候補者になりすます場合などはもちろんこれに当たるといえるでしょうが、例えばペンネームやアニメのキャラクターを名乗ったところで、選挙の公正が害されるとも思えず、むしろ政権批判などの政治的表現の自由が最大限尊重される必要があるでしょう。そうした観点で今回の事件を冷静に見ていく必要があると思います。

(永野 海/弁護士)

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