1年間で約2千件にのぼった障がい者への虐待
家族や福祉施設職員などによる障がい者への虐待が、平成25年度に2027件にのぼったことが厚生労働省の調査で明らかになりました。調査によると、虐待の種別では、暴行など身体的虐待が最も多く、次いで暴言など心理的虐待、不当に障害年金を取り上げるなど経済的虐待という順となっています。
この調査は、平成24年の「障害者虐待防止法」の施行を受け実施。各自治体への虐待に関する通報などをもとに事実確認がなされ、全国的な状況が取りまとめられたものです。
介護ストレスの蓄積を要因とする虐待の構造
在宅で障がい者を介護する家族ら養護者は、肉体的・精神的な介護ストレスを知らず知らずのうちに溜め込んでしまうことがあります。また、家族の介護のため養護者自身の就労が制限されることによる経済的問題や、外部との接触機会が少ないことによる孤立しがちな環境もストレスの要因となるでしょう。このようにストレスが蓄積した状況において、あるきっかけで養護者自身も思ってもいなかった「虐待」という行動を取ってしまうことがあるのです。
介護ストレスの蓄積を要因とする虐待の構造は、福祉施設の職員らによる虐待においても見ることができます。また、施設内における職員と障がい者の立場は、支援する側と支援される側という関係性を持っています。ともすれば職員の立場が非常に強くなりがちであり、このような両者の関係性は、虐待に陥る危険をはらんでいるといえるでしょう。
障がい者をケアする養護者への支援が必要
過重なストレスが虐待の要因の一つであるとすれば、養護者や施設職員を支援する取り組みが虐待防止につながることになります。障がい者をケアする人のための相談支援、介護ストレスや社会からの孤立感を軽減するための場や機会のさらなる充実が求められます。
また、福祉施設における虐待を防止するには、施設経営者・管理者が職員に対して適切な労務管理を行うことも重要です。適正な人員配置や労働時間の管理など、過重労働により職員がストレスを増大させることがないような配慮が必要でしょう。
障がい者虐待に関する専門性の確保が急がれる
虐待の予防と同時に進めていかなければならないのは、虐待発生時における自治体の対応力の強化です。
障がい者虐待への対応は、市区町村に設置されている「障害者虐待防止センター」や、都道府県に設置されている「障害者権利擁護センター」が担っています。これらの機関で大きな課題となっているのが、障がい者虐待に関する専門知識や経験を有する職員確保が進んでいないこと。通報があった際の緊急性の判断や、事実確認調査における虐待有無の判断など、様々な場面で専門性が必要とされることになるからです。
対応が遅れている自治体においては、医師や弁護士等との連携構築も含め専門性を強化し、障がい者虐待の予防から虐待発生時の対応まで、実効性を持って機能する体制の整備が急がれているといえるでしょう。
(佐々木 淳行/社会保険労務士)