正月とは、里帰りされた歳神様をお持て成しする特別な日
四季が明確に分かれている日本には年中行事が多々ありますが、中でも「お正月」は最も長い歴史を有する行事の一つです。もともと日本では、正月になると歳神様と呼ばれる先祖の集合霊が各自の家にお帰りになると信じられていました。したがって、正月とは、里帰りされた歳神様をお持て成しする特別な日です。しかし、最近、日本古来の「ハレの日」の感覚が薄れてきた気がしてなりません。お正月の意味や意義を正しく理解し、日本の素晴らしさを再認識したいものです。
歳神様は一年に一度、遠くから里帰りして、その年の豊作や子孫繁栄をもたらし、家族一同を幸せにしてくれます。だからこそ、歳神様をお迎えする準備は精一杯、真心をこめて丁寧にしなければいけません。
日本人の「思いやりの心」「おもてなしの心」の原点
元旦から三が日は、家族全員が里帰りされた歳神様をお持て成しするのが礼儀です。この時は歳神様と一緒に食事をするわけですが、その時のご馳走が「お雑煮」であり「お節料理」です。また、それを食べる時には、歳神様と人が共に食べられるように、両方が尖った「祝い箸」を使用します。
このように、家族が揃って歳神様と共に食事をしながら、一年のスタートを祝うと共に、向こう一年の家内安全、無病息災、子孫繁栄、五穀豊穣を祈念し、互いの絆を深め合うところに正月の大きな意義があります。
そして、こうすることにより、産んで育ててくれた父母、祖父母、先祖、さらに自然の恵みに感謝する心が育まれてきます。自然との共生の大切さもここから学び、地球の環境保護にも大いに貢献しています。また、世界から熱い視線が注がれている日本人の「思いやりの心」「おもてなしの心」の原点もここにあり、多様な文化を開花させました。加えて、歳神様と一緒に食事をするわけですから、その意味を正しく理解することで、最高のテーブルマナーが習得できます。
豊かな精神文化が、和食の無形文化遺産登録の要因にも
これだけではなく、歳神様と新しい年を祝うことにより、一日の始めを大切にし、一月を大切にし、一年を大切にするようになり、ひいては人生そのものを大切にするようになります。まさに「一年の計は元旦にあり」で「初心忘るべからず」です。
ちなみに「明けましておめでとう」は、歳神様を迎えるための喜びの言葉であり、新しい生命力が芽吹いたことへの感謝の気持ちを、互いに確認しあうための呼びかけで、絆づくりにとても役に立っています。
また、1月は「睦月」とも呼ばれます。身分の高い低いは関係なく、老若男女が互いに行き来して仲睦ましく暮らすと言う意味で、和の精神と共に世界の平和に貢献できます。正月に含まれる、このような豊かな精神文化が、和食がユネスコの無形文化遺産に登録された大きな要因にもなっています。
神様・仏様の存在が遠のき、秩序や感謝の心が希薄に
最近、国際化の名のもと、キリスト教式の挙式やクリスマス、ハロウィン、バレンタインデーといったイベントが年々派手になり、それにつれ神様・仏様の存在が遠のき、秩序や感謝の心が希薄になりました。国際化が進展するということは、不必要に西洋かぶれすることではなく、世界に誇る自国の文化に精通し、自らも輝き、次世代に正しく伝えることと、それを世界に向けて発信することです。
正月を単なる冬の長期休暇と捉えるのではなく、先祖を敬い、もてなす気持ちが凝縮されている大切な行事と認識すると共に、今までを振り返り、未来を展望するのも良いでしょう。
(平松 幹夫/マナー講師)