ムーディーズによる日本国債の格下げは3年4か月ぶり
米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは1日、日本の長期国債の格付けを「Aa3」から「A1」へ1段階引き下げたと発表しました。ムーディーズによる日本国債の格下げは、東日本大震災後の2011年8月以来、3年4か月ぶりです。今回のこの一段階格下げは何を意味するのでしょうか。
2011年8月に国債の格下げになったのは「首相が頻繁に交代し、一貫した政策を実行する妨げになっている」ことが理由でした。今回は、「財政赤字削減目標の達成可能性に関する不確実性の高まり」「デフレ圧力の下での成長促進策のタイミングと有効性に関する不確実性」「中期的な日本国債の利回り上昇リスクの高まり」が挙げられています。
プライマリーバランスの黒字化達成へ具体的な道筋が示せていない
日本の政府債務は1000兆円を超え、主要国の中でも最悪の水準にあります。政府は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字について、15年度に国内総生産(GDP)比で半減させ20年度までに黒字化させる目標を掲げています。そのために、15年度に消費税を上げて税収を増やす予定でした。安倍首相は消費増税の延期を表明した際、黒字化目標を堅持する姿勢を強調しましたが、達成への具体的な道筋は示せていません。そのため、財政赤字削減目標達成可能性に関する不確実性が高まったと見られているのです。
また、アベノミクスの「第3の矢」である成長戦略に対して、一部の経済指標は過去1年間で経済活動が改善したことを示していますが、潜在成長率は「依然として低い」と指摘されています。雇用の改善、コーポレートガバナンスの向上、人口動態から生じる課題への対処の必要性など、日本経済の根底にある構造的な問題に対処するために、「政府がどのような追加施策を選択・実行しうるかも依然として明らかではない」とも指摘されています。
さらに、財政再建は時間の経過とともに政府債務が一層増えて厳しくなります。その結果、政府の資金調達が厳しくなると、日本国債の利回りを上げざるを得なくなると見られているのです。
今回の格付け引き下げが日本国債市場に及ぼす影響は軽微
国債格付けは、政府が借金をきちんと返済できるかという信用力を示します。同社の格付けは21段階あり、「A1」は、最上位から5番目の階層に位置づけられています。この階層に位置づけられる国としては、他にオマーンやチェコ、イスラエルが挙げられますが、中国や韓国は、「A1」より一段階高い「Aa3」の格付けを得ています。ムーディーズは02年5月、日本国債の格付けを一気に2段階引き下げ、上から6番目のA2とし、アフリカの途上国ボツワナ(当時A1)以下に評価したことがあります。
しかし、今回の格付け引き下げが日本国債市場に及ぼす影響は軽微なものと考えられています。なぜなら、日銀が金融緩和策の一環として、大規模に長期国債を買い入れているためです。また、現在の日本国債の海外投資家保有比率は約9%です。それ以外は日本国内の金融機関や投資家によって買い支えられているため極端な日本国債の投げ売りが進む可能性はとても低いと見られています。ムーディーズの今後の見通しについても、日本は極めて高い信用力を維持しており「安定的である」とされています。
(福間 直樹/ファイナンシャルコンサルタント)