リケジョを増やすために、トヨタが支援に乗り出す
最近、理系を専攻する女性が「リケジョ」と呼ばれています。理系男性に比べれば遙かに少数派で、このリケジョを増やすためにトヨタが支援に乗り出すというニュースが話題になりました。トヨタがリケジョ支援に乗り出すという取り組みからは、同社の世界戦略が想像できます。
世界中の自動車市場で勝ち残っていくには、差別化が必要です。20世紀のモータリゼーション華やかなころの自動車は富の証明であり、大きな車体で目立つことが求められました。もちろん、燃費は気にしません。「お金がある」というデモンストレーションになったからです。ところが、中東情勢の悪化で世界はオイルショックに見舞われます。次第にお金持ちといえども、「環境を考えている」というアピールが重要視されるようになりました。
燃費競争では差別化が難しい局面に
すると、燃費の良い日本車が世界から注目され始めます。自動車開発の世界においても、燃費の良さが競争の軸になっていきます。しかし、競争はいずれ優劣付けがたい状態を迎えます。例えば、リッター5キロの燃費がリッター10キロになれば、燃費に優れた車だと宣伝できます。ところが、リッター20キロと21キロという競い合いでは、消費者は違いがわかりません。
また、リッター22キロを達成したとしても、ライバル社から22.5キロの自動車が登場するだけです。つまり、すでに燃費競争は差別化になりません。別の差別化として、障害物があればストップする機能など、安全性における性能は競争になるでしょう。しかし、いずれはどの自動車にも装備されてしまいます。
燃費や機能といった数値の競争軸からの脱却
では、一体どこに競争軸をおけば良いのか。トヨタが考えたのは、燃費や機能といった数値の競争軸から脱却することです。数字にならない自動車とは、フェラーリなどのスタイリッシュさであり、ロールスロイスのようなラグジュアリー感です。レクサスはそうした数値競争から、「おもてなし」という軸で世界に受け入れられました。
しかし、レクサスは高級車です。さらに世界の広い層に受け入れてもらうには、一般車をどうすれば良いのかが重要となります。そこで、トヨタはリケジョ支援で開発現場に女性の目線を組み込もうと考えたのです。例えば、「カワイイ」という日本語は世界中に広がっています。カワイイも数値競争から軸を外すことができます。
差別化という言葉より違う次元の「異別化」
ところが、難点があります。カワイイは感性であり、それを狙って開発するのは困難です。そこで、リケジョが必要とされます。もともと計算に強いリケジョならば、カワイイという感性を生かしつつ設計開発に力を発揮することができるでしょう。
過熱した燃費競争のように、消費者にとって違いがわからない不毛な競争から離れる必要性を感じた結果、差別化という言葉より違う次元の「異別化」というべき世界戦略こそが、トヨタのリケジョ支援だと想像できます。
(木村 尚義/経営コンサルタント)