言葉の「主語」を考えると、部下への伝わり方が変わる
職場でのパワハラが社会問題となってきた昨今、部下への教育をパワハラと混同されてしまうことを恐れて、指導に消極的になってしまう上司も多いようです。しかしながら、上司は部下の教育指導をする義務があり、これを行わないと組織の成長も望めません。そのような悪循環を避けるためにも、今回は部下を伸ばすコミュニケーションの方法を紹介します。
例えば、部下のミスの原因を聞きたいとき、このような言い方をすると、どのように伝わるでしょう?
(1)「なぜそんなことしたんだ!」
(2)「そんなことをした理由は何だ?」
(3)「そんなことをした理由を聞きたい」
部下からすれば、(1)は責められている印象を受けると思います。しかし、(2)(3)は、「理由が知りたい」という素朴なやり取りに感じるでしょう。実は、(1)の主語は「君(YOU)」であるのに対して、(2)は「理由」という「もの」。また、(3)は「私(I)」です。このように、「YOU」を主語とした言い方は、同じことを言っているにもかかわらず、相手を責めたり、咎めたりしているように伝わりやすいのです。
(2)や(3)の言い方であれば、ミスをしてしまった部下も冷静に聞いてもらえると安心し、落ち着いて話すことができるでしょう。人というのは不思議なもので、相手の質問に対して答えている内容を自分の耳で聞くことで、新たな気づきを得ることが多いものです。責めたり、咎めたりするのではなく、改善や成長に向けて上司が部下の考えをうまく引き出すことで、本人に気づきを与え、自主的な行動を促しやすくなります。
小さな成長をフィードバックし、部下自身の状況を知らしめる
部下を伸ばすために大切なことは、まず部下自身が「自分の状況を知る」ことです。そのために必要なのがフィードバック。部下から伝わってきたありのままの状況を、相手にそのまま返すのです。
例えば、人前で発言をするとき、相手とアイコンタクトを取るのが苦手で、いつも下を向いて話す部下がいたとしましょう。そんな部下が、あるプレゼンテーションで、視線を相手に向けることまではできていないけれども、顔を少し上げて話せるようになったとします。
この小さな変化は、周りにしてみれば、さほど意味のないものかもしれません。しかし、部下が自ら顔を上げようと努力しているプロセスは伝わってきます。こんなとき、「顔を上げようと努力していることがしっかりと伝わってきましたよ」とフィードバックすることで、部下は、自分が相手にどのように見えているのか、相手はどのように感じているのかを知ることができます。また、自分の努力を上司はしっかりとキャッチしてくれているという喜びを感じます。こういう小さなことの積み重ねで、この部下は上司に信頼を寄せていくでしょう。
もちろん、良くないことについても、フィードバックは大切です。「顔を上げようと努力していることはしっかりと伝わってきましたが、まだ相手と視線を合わすことはできていなかったですね」といったように。良し悪しの評価を言うまでもなく、部下は自分の現状と課題に気づくはずです。自分の姿や状況は自分には見えません。だからこそ周りの人からフィードバックをもらうことは、自分の成長に欠かせないことなのです。
期待を込めた言葉かけが自信を生み、自主的な行動の原動力に
そして、「やってみよう!」という気にさせる言葉の使い方があります。それは「期待をする」ことです。先ほど例に挙げたアイコンタクトの取れない部下に対して、「顔を上げようと努力していましたね。あとは、目を合わせるだけです。君ならあっという間にアイコンタクトに慣れてきますよ」。こういう言い方をすることで、「自分にもできる!」という自信を持たせ、自主的な行動の原動力になります。「君らしくないね。」「できるようになったら教えてくださいね」「あなたならできる」「○○が楽しみです」など、期待をかけた言い方を工夫してみるのも効果的です。
組織においては、時には厳しい叱責も必要でしょう。しかし、そこに信頼関係があれば、「ミスをしたことに対して叱られたのであって、自分という人格が否定されたのではない」と感じ、叱責を冷静に受け止め、今後に生かしていけるはずです。日頃の人間関係次第で、受け取り方が異なります。日々の円滑なコミュニケーションによる信頼関係の構築に向けて、上司から仕掛けていくことができれば理想です。
(浜田 純子/企業研修講師)