名曲「会いたい」を巡って著作権訴訟に発展
「会いたい」は、1990年に歌手の沢田知可子さんが歌い、130万枚を売り上げ、翌91年の日本有線放送大賞グランプリを獲得した曲です。20年以上も前の曲ですが、財津和夫さん作曲のゆったりとした曲調と、切ない恋の想い出をつづった沢ちひろさん作詞の歌詞が印象的。今でも歌い継がれる名曲です。
その沢田さんらが、この曲の作詞家の沢ちひろさんから訴えられているそうです。そのひとつの理由が、バラエティー番組で沢田さんが替え歌を歌ったこと。
よく知られているサビの部分「今年も海へ行くって いっぱい映画も観るって約束したじゃない あなた約束したじゃない 会いたい」を、沢田さんが「カラオケみんなが歌って いっぱいお金入るって全くウソじゃない 歌手は一銭ももらえない 泣きたい」と替えて歌ったのだそうです。
この他にも、アルバム収録曲で歌詞やタイトルが改変されておるとし、沢さんは著作者人格権の侵害だとして訴訟に踏み切りました。
「持ち歌」であっても「替え歌」は著作者人格権の侵害になりえる
歌手には「持ち歌」がありますが、著作権的に見れば、曲自体は基本的に作詞家の著作権と作曲家の著作権から成り立っており、カラオケでいくら歌われても、歌手等の実演家に印税が入るわけではありません。沢田さんは、その点を愚痴ったのでしょう。
歌手からすれば、何千回も歌い、身も心も注ぎ込んできた「持ち歌」は、まさに「自分のもの」という意識でしょう。「少しくらい変えても良いだろう」と思う気持ちもわかります。しかし、これは著作者人格権の侵害になりえます。著作者には、「著作物の内容を勝手に変えられない権利」(同一性保持権)および「作者として表示される権利」があるからです。
著作権とは別に、著作者固有の人格権としても保護される
著作物の内容を勝手に変えてはいけません。これはたとえ、著作権を買い取っていても同じです。なぜでしょう。
「会いたい」のケースで言えば、この歌詞は、沢さんによれば「幼い頃に死に別れた母との思い出をベースにしたもの」だそうです。確かに、そんな想い出をお金の問題にされてはたまりません。このように、著作物には、作者固有の考え方や感情が色濃く反映されており、経済的権利である著作権とは別に、著作者固有の人格権としても保護されるわけです。
同一性保持権は歌詞だけの問題ではありません。絵画を描き換えたり、彫刻の一部を挿げ替えたり、庭園の構成を変えるというようなことも同一性保持権の侵害になり得ます。例えば、素っ裸の人物像が描かれた絵画の股間に布を描き加えても同一性保持権の侵害です。
現行法の下で同一性保持権は注意が必要な要素
もっとも、同一性保持権をかたくなに守ることが良いかどうかは別問題です。様々なアレンジ等が原著作物の幅を広げていくケースもあるでしょう。また、商業的なデザインの場合、商品の販売形態等に応じてデザインを修正する必要もあり得ます。きちんと著作者の承諾を得るのが正しいとはいえ、こうした場合にも同一性保持権を厳格に主張されると非常にやっかいです(繰り返しますが、著作権を買い取っても著作者人格権は移動しません)。
著作物を様々な態様で利用していく上では、同一性保持権の主張をある程度制限した方が良いのではないかと個人的には考えますが、現行法の下で同一性保持権は注意が必要な要素です。
今、話題のLINEスタンプの販売でも、著作者が著作者人格権の主張をしないことが条件になっています。企業が外注等で外部の著作権者から著作物を受け入れて利用するケースでは、契約等で同一性保持権の主張にしばりを掛けた項目を入れておくのが安全といえるでしょう。
(小澤 信彦/弁理士)