理屈としては合法的にプロ野球を賭け事の対象とすることは可能
サッカーの試合を対象としているスポーツ振興くじ(通称「toto」)を、日本のプロ野球にも導入する方向で政府が検討しているそうです。
まず、大前提として、原則として賭け事は法律で禁止されています(刑法185条)。totoが容認されているのは、別の法律(「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」)によって認められているからです。したがって、今はサッカーの試合に限定しているこの法律を改正し、プロ野球も賭けの対象にすることを法律に定めれば、理屈としては合法的にプロ野球の試合結果を賭け事の対象とすることは可能となります。
100年近い歴史を持つプロ野球ではJリーグのようにはいかない
しかし、日本のプロ野球をJリーグのサッカー同様、賭けの対象にすることは、そう単純なことではないと思います。Jリーグにtotoが導入されたのは、何よりも日本のプロサッカーの黎明期であり、新しい取り組みが受け入れやすい土壌がありました。また、すでに海外ではプロサッカーが公的にギャンブルの対象となっていたという事情もあります。
一方、日本のプロ野球は、(諸説ありますが)すでに100年近い歴史があります。いきなり公に賭け事の対象にされることは選手会としても抵抗があるでしょうし、イメージの悪化は避けられないという考えを持つ球団も出てくるのではないかと予測されます。特に選手としては、賭けの対象とされることにより、活躍できなかった場合に身の危険が生じるのではないかと考える人もいることでしょう。
プロ野球の歴史的タブー「黒い霧事件」も障害に
また、日本プロ野球と賭け事との関連で忘れてはならないのが、いわゆる「黒い霧事件」です。これは、昭和40年代に、暴力団が行っている野球賭博に関連して現役のプロ野球選手が八百長を持ちかけられ、それを実行した、または実行したという疑惑が持たれている事件です。黒い霧事件は、プロ野球の歴史的タブーのような取り扱いをされており、totoを導入してプロ野球を賭けの対象とするという話になると、この事件が思い起こされることとなります。この点も法制化に向けて障害となるのではないかと考えます。もちろん、これに関連してtotoの対象となった場合に八百長が発生するのではないかという疑念を払しょくできるかという問題もあります。
法律は国会が制定しますが、いくら国会とはいえ、世論や現場の意見を無視して強引に法律を作ることは考えにくいことです。現状、具体的に日本のプロ野球がtotoの対象となることに対してどういう意見を表明しているかはわかりませんが、上記事情を勘案すると、おそらく積極的に賛成するとは考えにくいでしょう。そうすると、法制化することは決して容易ではないと思われます。
(河野 晃/弁護士)