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「就活自殺」増加で迫られる価値観の転換

JIJICO 2015年8月17日 14時0分

目立つ「就活自殺」。7年間で218人に上る

警察庁統計によると、就職活動がうまくいかないために自殺をする「就活自殺」者が、2013年度までの7年間で218人に上るという報道がありました。年間約30人ということですが、専門家によれば実際は数倍の規模になるともいわれているそうです。なんとも悲しい事態です。

若者の自殺数が増えているわけではなく、「就活による自殺者」の割合が目立ってきています。報道によれば、大手や財閥系企業が採用人数を減らす一方で、中堅・中小企業も伸び悩んでいて、「いずれ会社も大きくなるだろう」という期待は持ち難くなっている、といいます。

成長株を持っているのは、比較的ブラック企業の多いといわれているIT業界くらいという状況で、「大手に落とされたら、ブラック企業で一生を送るしかない」「自分には非正規雇用しかないかもしれない」といった悲観的な考えに捕われて自ら命を絶ってしまうケースがあったそうです。また、「同級生がみんな大手から内定をもらっているのに、自分は中小企業にしか入れなかった」という挫折感から、うつになる学生がいるようです。

「大手へのこだわり」が「就活自殺」の特徴

このような「大手へのこだわり」が「就活自殺」の特徴です。いわゆる「一流大学→一流企業」という勤め人としてのエリートコースから「落ちこぼれてしまった」挫折感、「中堅・中小企業も将来は大手になるかもしれない」という希望の喪失が絶望につながってしまうのです。

エリートコースに乗るために小学生の時から(あるいは、すでに幼児のころから)当たり前のように塾通いに精励し、大学にまで進学して大きな目的である「一流企業就職」を前にしながら、それがあっけなく消えてしまった場合、本人にとっては、それまでの苦労や犠牲は何のためだったのか、わからなくなってしまうのも理解できます。

価値観の転換が必要。大人たちは人生観において挑戦を受けている

当人がこうした大きな危機を乗り越えていくことは、大変なことですが、大手一辺倒の人生観を捨て、「人生万事塞翁が馬」と捉えて、例えば、「中堅・中小企業でも一流の人生が可能」というような、価値観の転換が不可欠です。長期的には、政府にはもっと中小企業の育成政策を推進してもらい、大学の就職サポートには企業や仕事の魅力について幅広い情報を収集してもらわねばなりません。しかし、今まさに挫折してしまった学生を救うためには、親や大学教師をはじめとする大人たちが仕事・人生に対する広い視野と深い理解に開かれている必要があるでしょう。

日本をリードする企業が行き詰まっている今、大人たちもこうした問題を突きつけられているのです。就職難は学生の責任ではありません。企業、世界経済自体が行き詰まっている結果です。それを導く大人もまた、人生観、世界観において挑戦を受けています。

経済成長を偏重しがちな日本社会が、世界的不況を生き抜くレジリエンスを新たに身につけていかなければならない時期にあって、就職難を背負わされている若者たちは、まさにその先鋒に立っているといえます。こうした若者たちをどう導くことができるかは、今後の日本がどう道を切り開いていけるかということでもあると思います。

(池上 司/精神科医)

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