福岡地裁、国に対して運賃の変更命令を出すことを仮に差し止め
指定された地域のタクシー運賃について、国が運賃の範囲を指定しています(公定幅運賃)。タクシー事業者は、運賃を定めて国に届け出ることになっており、公定幅運賃でない運賃について、国は事業者に対して変更を命じることができます。
福岡市のタクシー事業者が公定幅より安い運賃を届け出たことについて、国(九州運輸局長)が変更命令を出そうとしたことで、その事業者は、差止めを求める行政訴訟を提起するとともに、仮の差止めを裁判所に申し立てました。その後、福岡地方裁判所は、国に対して運賃の変更命令を出すことを仮に差し止めました。仮の差止めに対する国の不服申立て(即時抗告)は、今月7日に福岡高等裁判所で棄却されています。同じグループの会社が大阪でも同様の争いをしており、大阪高裁でも福岡高裁と同様の判断が出ているようです。
緊急の必要がある場合に出される裁判所の仮の差止め命令は妥当
仮の差止め命令は、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある場合に出されます。今回の場合は、運賃の変更命令がいったん出されてしまうと、従前の安い運賃では適法に営業できなくなってしまいます。そうなれば、これまでの予約中心のビジネスモデルが維持できなくなり、従業員の解雇や顧客の信頼喪失を招くことになってしまい、事後的な金銭賠償では足りない損害をタクシー事業者に与えることになりかねません。したがって、今回の仮の差止めでは、そのような損害を避ける緊急の必要性が認められています。
また、仮の差止めには、訴訟でも差止めが認められる(勝訴する)ように見えることも必要です。今回の事業者の運賃は、以前に認可されていた運賃でした。公示された公定幅運賃の下限が事業者の運賃より高いものであったため問題になったのですが、裁判所は、そのような運賃の範囲を定めた処分は、裁量権の範囲を逸脱・濫用したものと認め、勝訴の見込みも認めています。そして、今回の件で仮の差止め命令を出しても、この事業者限りの問題のため「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」はないと判断されています。
今回の件では、事業者側は、公定幅制度や公定幅の設定は、営業の自由(憲法22条1項)に反するとの主張もしています。裁判所は、公定幅制度を憲法に適合的に解釈して憲法違反までは認めずに、国側の裁量権の逸脱濫用を認めています。地裁の仮の差止め命令の内容を読む限り、裁判所の判断は妥当だと私も思います。
公定幅制度の見直しや独占禁止法の適用排除規定も議論されるべき
そもそも、下限を下回る運賃を認めていた自由認可運賃制度から、下回ることを事実上、予定していない公定幅運賃制度に規制強化されたことが問題だったのではないかと思います。このような規制強化の方向は、創意工夫と営業努力を重ねている事業者の成果を損なうものですし、利用客がより良い、あるいは新しいサービスを受ける機会を失わせるものだと思います。公定幅制度の見直しが必要でしょう。
また、公定幅制度を定めている特措法によって、独占禁止法の適用排除が規定されています。公正で自由な競争を促進することを目的とした独禁法を排除する方向性が妥当なのかについても議論されるべきだと思います。
ビジネスの自由も、主張していかなければ規制をされる方向に流れていきます。従来から果敢に行政と正当に争うことでビジネスを発展させてきたこのタクシー事業者を、私は尊敬します。
(林 朋寛/弁護士)