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マグロ初競り価格が高騰しなかった真相

JIJICO 2015年1月18日 17時0分

「初競り」で青森県大間産のクロマグロが451万円で落札

東京・築地の中央卸売市場で1月5日の朝、今年初の取引となる「初競り」が行われ、青森県大間産のクロマグロが451万円(1キロ当たり2万5千円)の最高値で競り落とされました。しかし、2013年の初競り最高値が1億5,540万円だったことから考えれば、今年の価格が高騰しなかったのはなぜなのでしょうか。

それは、広告よりも「話題」の時代到来を意味しています。昭和のころであれば、広告に予算を割けば、それだけの見返りがありました。しかし現在、インターネットはもちろんのこと、テレビやラジオ、電車の中吊り広告、路上の看板と大量の広告を目にします。普通の生活を送っていても、あらゆる広告が目に入る中、記憶に残るものはわずかです。そんな中、仮に広告内容がニュース化されるなどで話題になれば、多くの人に記憶されます。現代では「話題」となって初めて、広告は投資金額の数十倍の価値を生むのです。

話題づくりを考えた外国人が、マグロの入札に参戦

2013年に過去最高値を記録したマグロ初セリ高騰の発端は、リッキー・チェン氏にあります。彼は19歳で来日して寿司の修行に励み、香港で寿司店をオープンします。成功の感触を掴んだチェン氏は、日本に逆上陸を試みました。ところが、寿司は日本の伝統文化であり、中国人オーナーの寿司店という印象が災いし、保守的な日本ではなかなか受け入れられませんでした。

そこで、チェン氏は話題づくりを考え、マグロの入札に挑みます。当時、マグロの初競りは大手チェーン「すしざんまい」を率いる木村清氏の独壇場で、「マグロ王」とまで呼ばれていました。ここに、チェン氏が勝負をかけたのです。言ってみれば、若い外国人ボクサーと日本人チャンピオンが、マグロ王をめぐってタイトル争奪戦を繰り広げたのです。

落札額が高騰すれば、メディアへの露出も増えていく

結果、2008年から2011年まで4年連続で、チェン氏は初競りにおいて最高値でマグロを落札しました。外国人がマグロを落札したということで、案の定、ニュースにも取り上げられました。ニュースになったことで情報感度の高い、珍しいもの好きの目に触れ、チェン氏の寿司店は口コミで評判を集めていきます。

一方、「マグロ王」の面目を潰された木村氏も黙っていません。そして、両者の意地の張り合いが最高潮に達した2013年、木村氏が落札したマグロの価格は1億5千万円を超えました。落札額がエキサイトすればするほど、メディアへの露出も増えていきます。

戦いの終焉によって初競り価格は落ち着きを取り戻した

しかし、チェン氏の目的はマグロの入札に勝つことではなく、商売を軌道に乗せることです。目的さえ達成すれば、競り合う意味はありません。また、日本では、出る杭は打たれる前に静かに鳴りを潜めたほうが得策だと学び、トリッキーな話題作りではなく、普通に広告での宣伝に移行していったのです。結果、2014年からマグロの初競り価格もずいぶんと落ち着きを取り戻しました。

また、ほかにも安値の理由は想像できます。高騰がニュースになった結果、「そんなに儲かるなら」とマグロ漁師は漁獲高を上げ、需要と供給のバランスが整って市場価格も落ち着いたということです。現実的には、こちらがマグロの初セリ安値の真相かもしれません。

(木村 尚義/経営コンサルタント)

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