節税策として期待、4制度を利用した生前贈与
いよいよ相続税の基礎控除が大幅に引き下げとなり、巷には相続税対策を謳った出版物があふれています。中でも、生前贈与を利用した節税手法が多く見受けられますが、個々の事情に応じた得失があるので、早合点をせずに、よくケーススタディーをすることが肝心です。今回は、相続税対策として、生前贈与をする場合に金額をどう決めれば良いか、基本的な考え方について紹介します。
相続税対策の基本ロジックには、次の3つがあります。
■課税対象財産から外す
■課税価格を下げる
■適用税率を下げる
生前贈与は主として「課税対象財産から外す」を狙ったものですが、現在、贈与税の非課税措置としては、(1)直系尊属から贈与を受けた住宅取得資金のうち最大3,000万円、(2)直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち最大1,500万円、(3)直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち最大1,000万円、(4)贈与税の配偶者特例、最大2,000万円、の4つの制度があります。
一方で、「相続開始前3年以内の贈与財産は、相続税の課税価格に加算する」というルールもあります。これは、生前贈与を利用した駆け込みの節税策を封じるための規制です。ところが、これら4制度を利用した生前贈与であれば加算の必要がありません。贈与者の死亡時期にかかわらず、節税策としての効果が期待できます。
暦年贈与の金額は310万円以下が一つの目安
また、「110万円の暦年贈与の基礎控除枠を利用した節税策」がよく知られています。もっとも、この110万円は、贈与税計算上の基礎控除額で、非課税ではありません。したがって、3年以内に贈与者が亡くなれば、この部分も課税対象となります。せっかくの節税策が徒労に終わるということです。
では、暦年贈与の金額はどの程度にすれば良いでしょうか?相続税の最低税率は、1,000万円以下の部分に適用される10%です。これに対し、贈与税の最低税率は、200万円以下の部分に適用される10%。基礎控除後の金額に課税されますので、310万円以下であれば贈与税率が相続税率を超えることはありません。これが一つの目安となります。
さらに、「適用税率を下げる」を狙った相続税対策も考えられます。しかし、「課税対象財産から外す」のように汎用的に当てはまるわけではありませんので、個々のケースに応じたシミュレーションが必要です。どちらかといえば、限界税率が高い大型の相続に適した節税策といえます。
例えば、課税価格が1億円を超える相続の場合、限界税率は40%になりますが、これを相続人の妻や特定の親族に分散して贈与すると、10%~20%の限界税率に抑えることが可能です。「課税対象財産から外す」との組み合わせで検討すれば良いでしょう。
老後の生活資金との兼ね合いで無理のない金額設定を
人口の高齢化に伴い、今後、療養や介護の問題がますます切実になるのは否定し難い事実です。子や孫に経済的負担をかけられないため、自分たちの始末は自分たちでつけるしかない、といった覚悟が必要です。
しかし、「財産を残した」といっても、大半は居住用不動産で金融資産は存外に少ないのが実情かもしれません。今、都会・地方を問わず、空き家問題がクローズアップされています。老後資金に不安があるため自宅を流動化したいが、売るに売れない・貸すに貸せないといった厳しい現実もあります。
一方では、教育資金贈与信託が活況のようです。資金的に余裕のあれば良いですが、「相手の祖父母が贈与したので、こちらもやらないと子どもの肩身が狭い」などの理由で無理しないてください。お金を持っていない老後ほど、惨めなものはありません。職業柄、そう思います。
(松浦 章彦/税理士)