認知症の高齢者、25年に700万人に。支援の拡充を図る
厚生労働省は、10年後の2025年には認知症の高齢者が700万人になるとする推計値を示し、省庁を超えて取り組む国家戦略案を明らかにしました。認知症高齢者の人数は280万人(平成22年厚生労働省による)に上っています。また、その集計時に算出された認知症人口の推計が、2025年に470万人となっていたことを考えれば、国が想定していた以上に増加スピードが進んでいることがうかがえます。
そもそも、認知症対策としては、厚生労働省が介護保険制度の中で位置づけています。例えば、2005年改正では、認知症ケアのために地域密着型サービス(認知症の人だけしか利用できないデイサービスやグループホーム)が整備され、次の2011年改正では、介護保険事業計画に認知症支援策を盛り込むなどの施策がすでにとられています。
今回の国家戦略が目指すのは、住み慣れた地域で暮らし続けられる社会の実現。早期の診断・診療の体制を整備し、本人や家族が必要とする支援の拡充を図ります。具体的にどのような方策が取られるか見ていきましょう。
認知症は早期診断が重要。医師に対する研修は望ましい
認知症であっても、早期に診断を求める高齢者は実際には多くはありません。今後の不安と対応が心配されるからでしょう。しかし、認知症は、適切な診断や対応を理解しておけば、不安が軽減されるケースがあります。
そのために医師に対して研修を行うことが盛り込まれています。かかりつけ医が認知症の兆候を的確に判断し、診察へ持っていけるような体制は望ましいと言えるでしょう。
介護職に対する研修制度を創設。人材不足解消が課題
もちろん、認知症の対応も的確に行っていかなければなりません。そこで、介護職に対する研修制度も創設するといったことも検討されているようです。
しかし、現状、介護職員の不足が叫ばれている介護現場において、このような研修制度がうまく運用されていくのかには不安点が残ります。ただ新しい研修制度を創設するといったことだけでなく、現場の介護職員が研修を受講できるように、人材の拡充や定着に向けた支援も同時に実施しなければならないと感じます。
若年性認知症への支援も。地域支援団体への事業委託も視野に
また、若年性認知症(65歳未満で発症する認知症)に関しては、2009年現在で3.78万人(厚生労働省調査による)となっており、人口10万人当たり47.6人というデータがあります。決して多くはありませんが、無視できない数字です。
今回の国家戦略では、現役世代の支援のために、都道府県に相談窓口を設置し担当者を配置、交流の場作りや就労支援も進めていくとしています。家族会などはあるものの、孤独感や閉塞感を抱えている家族は多いと思われるため、行政が積極的に相談窓口を設置していくことは賛成ですが、運用をしていくことができるのかが問題です。行政主導の縦割りになる恐れも考えられるため、事業化するのであれば、地域で活動している若年性認知症の支援団体への事業委託も視野に入れておくことが望ましいでしょう。
いずれにせよ、ここ10年で認知症に関する問題は多発すると考えられます。国家戦略で、どこまで民間を巻き込んで支援していくことができるのか、逆に民間は行政とタッグを組んで認知症支援を進めていくことができるのか、今後の国の動きを注視したいところです。
(馬淵 敦士/介護福祉士)