裁量労働制、一部の営業職にも認める方向
厚生労働省が発表した改正労働基準法案の骨子によれば、これまで専門的職種や企画管理業務などの限定された労働者に対して認められてきた裁量労働制を、一部の営業職にも認める方向のようです。裁量労働制の解禁が検討されている営業職とは、顧客の求めに応じ、顧客の課題を解決するための商品やサービスを提案する「提案型営業職」です。具体的には、金融商品の営業職などが想定されているものと考えられます。
裁量労働制とは、業務遂行の方法や時間配分などを労働者の裁量に委ねる制度で、労働時間の計算にあたっては、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ労使で決めた時間を働いたものとみなすことができるものです。簡単に言えば、労働時間が長くても短くても、成果を上げれば良しとする働き方です。
「残業代ゼロ」の手段として悪用される危険性も
裁量労働制は、その業務の性質から仕事を時間で管理するにはそぐわない業種に関しては、労使双方にとって非常に有益な制度であると言えます。しかし一方では、実際の労働時間が長くても、みなし時間が適用されるため「残業代ゼロ」の手段として悪用されかねません。また、労働を時間ではなく成果で評価するシステムであるため、労働者の「長時間労働を助長」する可能性も危惧されています。労働組合などは、裁量労働制の対象となる職種を拡大することに対して反発しています。
そもそも、政府が想定する「提案型営業職」についてですが、対象となる営業職の線引きが難しいところです。営業職という職種には、顧客に商品・サービスを提案することが業務内容に当然要素として含まれてきます。実際は業務に対して裁量が与えられる余地が少なく、労働時間で評価・管理する方が良いにもかかわらず、残業代を削減したいという使用者の思惑によって裁量労働制の対象者とされてしまう労働者が増える恐れがあるのです。
いわゆる「ブラック企業」といわれる悪質な企業の逃げ道として利用されることのないよう、きっちりとした法整備・運用が求められます。
働き方の多様化で、適切な労働管理・安全健康管理がさらに重要に
働き方のルールを定めた労働基準法が誕生したのは昭和22年のことです。その後、様々な改正がなされてきましたが、ベースとなっているのは「工場労働者を守る」という発想です。そのため、最も労働を評価・管理しやすい「労働時間」が重視される傾向にあることは否めません。
現在、人々の働き方は多岐にわたり、仕事の評価をするにあたって労働時間を基準とすることが適当な職業ばかりではなくなってきました。裁量労働制のように、仕事を時間ではなく成果で評価する働き方が今後、増えてくるかもしれません。いずれにせよ、過重労働や労働に見合わない低賃金という問題を防ぐためにも、適切な労働管理・安全健康管理が重要であることは言うまでもありません。
(大竹 光明/社会保険労務士)