問題の本質は、LINEにあるわけではなく、教師の倫理的な感覚
教師による「わいせつ事件」が後を絶ちません。文科省の発表によると、平成24年度の教育職員の懲戒処分者は968人。その処分事由としては、 交通事故(286人)・体罰(176人)・わいせつ行為など(167人)が中心となっており、全教育職員のうち0.11%という割合は過去10年間で大きく変化していません。
最近はLINEを通じたわいせつ事件が問題となっており、全国的にも対策が取られつつあります。LINEを通じた不祥事件が起きた埼玉県や神奈川県では、教師と生徒間のLINEの使用を禁じる処置が発表されました。また、広島県や岡山県では、原則、教師と生徒間のメールなどによる私的連絡は禁止、千葉県では、管理職による承認や保護者の同意が必要とされています。しかし、教師と生徒間のLINEやメールを禁止するという処置だけで、解決するとは思えません。問題の本質は、連絡手段としてのLINEにあるわけではなく、やはり教師の倫理的な感覚にあるのは間違いないでしょう。
教師は公務員として「全体の奉仕者」で十分な配慮と慎重さが必要
「教育公務員特例法」にもある通り、公序良俗に反する行為は公務員としての信頼失墜行為にあたります。まして、子どもたちを指導する立場の人間が、わいせつ行為などの加害を及ぼすことは許されるわけがありません。
しかし、教師が生徒と個人的な交際することが、即、信用失墜行為にあたるわけではないでしょう。公務員としての信頼失墜行為と見なされる場合は、青少年保護育成条例違反やわいせつ行為などが、その対象になるわけです。社会的に容認される範囲で、漫画やドラマで教師と生徒との純愛を描いた作品も一般に発表されていますし、実際に教え子と愛を育み、卒後後に結婚した教師も少なからずいます。
ただし、その関係を巡って、公務員として「全体の奉仕者」であるべき教師が、特定の個人を特別扱いしたり、道徳的非難の対象となるスキャンダルを起こしたりすれば、やはり信頼失墜行為と見なされるでしょう。その点、十分な配慮と慎重さが必要だと思います。もちろん、わいせつ事件などは、言うまでもなく卑劣な犯罪行為です。
「閉鎖性」が事件を招く。LINE禁止はやむを得ない対応
ちなみに「スクールハラスメント」防止に関わる団体によれば、わいせつ事件に関して警戒が必要な状況は「部活・携帯・個人の車」がキーワードだということです。最近、起きた埼玉県や神奈川県でのわいせつ事例も、「部活動」という閉じられた人間関係の中で、LINEという連絡手段を通じて個人的な関係を深め、「個人の車」という閉鎖空間で性的な加害に及ぶパターンでした。そこに共通するのは「閉鎖性」ということでしょう。
性的加害者の手口には、被害者の罪悪感に付け込み「共犯者」に仕立て、「秘密」を強要する特徴があるといわれています。被害にあった子どもがなかなか親や周囲に相談できないのも、その「閉鎖性」を共有する手口に縛られているからでしょう。その点から先の団体は、保護者に対して子どもと教師との関係を「密室」に置かないことが大切だと指摘しています。
現実には、LINEは学校現場のさまざまな場面で活用されています。友だち同士の連絡手段としてだけでなく、部活やクラスの連絡網、あるいはPTAなどの親同士の連絡方法としても非常に有用で便利な手段であることは間違いありません。しかし、卑劣な事件が多発している現在、LINEの持つ有用性と、犯罪行為などにつながるリスクを天秤にかけざるを得ません。その結果、LINEによる教師と生徒間での私的連絡の禁止という対応はやむを得ないかもしれません。とはいえ、やはり手段は手段です。結局、最終的な問題は個人の倫理であり、子どもたちを教え導く立場の教師は当然、責任重大であることは言うまでもありません。
(岸井 謙児/臨床心理士・スクールカウンセラー)