商品先物取引、一定の条件のもとでの勧誘を認める方針に転換
相場の動向に価格が左右される金や石油、穀物などの商品先物取引について、監督官庁の経済産業省と農林水産省が、勧誘について規制を緩める方針を固めたと報道されています。
これらの取引については、投資家保護のために年々規制が強化され、現在は、取引を望まない消費者を電話や訪問で勧誘する行為は原則禁止とされています。しかし、関連する省令を改正し、収入や資産が多い人など一定の条件のもとでの勧誘を認めるという方針に転換するというのです。
規制強化の影響で取引量が大きく落ち込み、経営が厳しくなった業者側の要望を受けて、先物取引に関する勧誘規制を緩和するという方針については、違和感を持たざるを得ません。
多大な損失を被る恐れのあるハイリスク・ハイリターンの取引
私も、アベノミクス第三の矢は規制緩和を中心とした産業の構造改革の促進だと考えているので、この方向性を否定するものではありません。ただ、先物取引の勧誘規制を一定の条件下であったとしても緩めることの弊害は大きく、仮に、取引についての理解度をチェックする仕組みを設けたとしても、それでリスクを回避できるのかという点については懐疑的にならざるを得ないのです。
投資信託や一般の株式購入のように、手持ち資金の範囲で株式や証券を売買する程度の取引であれば、リスクは最大でも投資した元金を失うだけで済みます。しかし、商品先物取引の場合には、委託証拠金を積んで、その金額の数倍の取引を行うことになります。相場の変動によって大きな利益を上げることもあれば、予想外の多大な損失を被る恐れのある極めてハイリスク・ハイリターンの取引なのです。
射幸心の強い顧客にとっては、簡単に深入りしてしまいかねない
もう少し具体的に説明すると、先物取引では、委託証拠金を積むことで、その10倍20倍の商品を取引できます。相場が変動することで、買った商品を売却すると決めていた決済日の時点で値下がりしていれば、買った商品の値下がり分だけ損が発生するので、差し入れていた証拠金を上回る金額を支払う必要が出てきます。
また、決済日までの間でも、その時点の相場で計算して取引の含み損が証拠金の半分以上になった場合、その証拠金減少分を追加で証拠金として請求される「追証」(おいしょう)という制度もあります。さらに、この取引は、最初に商品を買うところから入らなくても、手持ちにない商品を売るところから取引を始めることもできます。「空売り」という方法ですが、それを将来の決済日に買うことで帳尻を合わせることができるのですが、将来、価格が上昇してしまえば大損することになります。
このように、商品先物取引は射幸心の強い顧客にとっては、簡単に深入りしてしまいかねない危うい取引で、かなりギャンブル性の高いものです。ひょっとすると、通貨先物取引(FX)が一般にも認知されたことを契機に、商品先物取引も認めても良いのではないかという考えなのかもしれませんが、それも考え物です。
勧誘規制の緩和を認めるという判断は、慎重にすべき
商品先物取引を介在する商品取引業者は、顧客が商品を売り買いする都度、手数料を受け取れる仕組みになっています。その営業担当者の給与は歩合制がほとんどなので、一度、先物取引に手を出した顧客に対しては、不必要とも思われる売買を勧めて手数料を稼ぎ、その結果、顧客が大損をするという被害が頻発しました。それが、先物取引の勧誘規制につながったということを忘れてはいけないと思います。
このように、商品先物取引はいくら手持ち資金があったとしても、極めてリスクの高い取引ですから、素人が安易に手を出すべきものではありません。ハイリスクを受け入れる覚悟のない一般人に対して「勧誘規制の緩和を認める」という判断はよくよく慎重にすべきものです。
(舛田 雅彦/弁護士)