地震は何の兆候もなく、突然、襲ってくる
東日本大震災から4年、阪神・淡路大震災からも20年が経過し、人々の記憶から震災の惨状が薄れつつあるようにも思いますが、忘れた頃に襲ってくるのが地震です。
地震の恐ろしさは、何の兆候もなく、突然、やってくるところにあります。幸いに命は助かったとしても、住まいの再建には途方もない労力を要することもあるでしょう。日頃から備えていれば問題はありませんが、いつ襲ってくるかわからない地震に多大な費用を投入するわけにもいきません。
はたして、低コストでの耐震補強は可能なのでしょうか?
実は、耐震補強の費用は高くない
建物の傷み具合にもよりますが、実は、耐震補強そのものは大した金額ではありません。最も効果的といわれている補強方法は、建物全体の重さを軽くすることです。地震力は、重いものほど大きく影響を受けます。建物全体を軽くすれば、壁や基礎に手を加えなくても被害が軽減される可能性があります。例えば、雨漏り修理のついでに、重い瓦屋根を人工スレートや金属屋根に葺き替えてしまうのです。それだけで雨漏り修理と耐震補強を同時に行ったのと同等の効果が得られます。
また、壁の補強そのものも大きな金額ではありません。補強を行った壁だけが新品になることを嫌がって、部屋全体の模様替えをしてしまうから高くなるのです。補強した壁は家具などで隠せるのであれば、部屋全体を触らなくても違和感なく住まうことができるでしょう。
古い家の耐震補強は、安価な装置を数多く、バランス良く
耐震関連の装置が、さまざまなメーカーから販売されています。中には「通常の壁の5倍以上の強度がある」と宣伝する高価な装置や補強材もあります。そのような高強度な材料を新築に用いることは抵抗ありませんが、築年数の古い建物にはお勧めできません。壁だけでなく、家全体が経年劣化しているからです。あまり高強度な補強材を使用すれば、そこに地震力が集中して、手を加えていない部位が破損する恐れがあります。例えれば、骨粗鬆症の老人にプロスポーツ選手の筋肉を一部移植するようなものです。
古い家の耐震補強は、高価で高性能な耐震装置を用いるのでなく、安価で、強度的には最新の工法に劣るものでも構いませんので、できるだけ数多く、バランス良く配置することが肝心です。日本の家屋は南側に壁が少なく、北側に多い傾向にあります。東西方向に地震で揺さ振られた場合、北面は地震に抵抗しようとしますが、南面は抵抗できずに大きく揺れることになります。このようなアンバランスな状態にならないように、バランス良く揺らせる工夫をするのです。
客観性を心がけることが、割安で効果的な耐震改修につながる
耐震改修リフォームは、地場の工務店から、大手の住宅メーカーまで盛んに売り込みに来るでしょう。いずれの場合でも、耐震診断を実施して、どこを補強すれば地震に効果があるかを検討しながら、補強計画を立てていきます。
ここで重要なのは、補強方法は一つだけではないということです。建物の形状や敷地条件、傷み具合などを考えながら、ベストの工法を選択するのですが、補強計画を立案する人(設計者)と工事する人(施工者)が同じ人(会社)であると、ともすれば独善的な耐震改修になってしまう恐れがあります。
新築とは異なり、ケースバイケースでの判断を要求されますが、そこには客観性がなければ良い耐震改修とはいえません。独善を避けるために、公的助成金を活用して行政の監視の目を導入したり、設計者と施工者を分離して別々に依頼し、できるだけ客観性を心がけることが、結果的に割安で効果的な耐震改修につながります。
(福味 健治/一級建築士)