深刻な住民の「団地離れ」。活性化が最大のテーマだった
昭和30~40年代の高度経済成長期、戦後の住宅不足を解消するために大量に供給され、当時は庶民の憧れだった「団地」。それから50年が経過した現在、団地は「老朽化」と「住民の高齢化」などの課題に直面しています。特にエレベーターのない5階建の団地の4階や5階部分などは、階段の上り下りが大変な高齢者層や、子どもと買物荷物を抱えてベビーカーを上げ下げしなければならない子育て世代を中心に敬遠される傾向があり、空室も目立っています。
時代の変化や人口減少に伴い、住民の「団地離れ」が進み、団地にとって、いかに若者層を呼び込み、活性化させていくかが最大のテーマでした。
URと無印のコラボに脚光。募集数日で予約が埋まる盛況ぶり
ところが、今、一部の「団地」で、賃貸住宅としての人気が高まっています。その理由は、UR(都市再生機構)と、生活雑貨ブランド「無印良品」の住空間事業部門を担当する「MUJI HOUSE」がコラボし、古くからある「団地」にリノベーションを施した、独創性のあるおしゃれな賃貸住戸を供給し始めたからです。
URとMUJIが、24年に大阪の3団地36戸から募集をスタートさせた、この「団地リノベーション住戸」は、20代や30代を中心に人気が上昇し、応募倍率は今までの倍になるなどの成功を収めました。この大阪の成功により、その後、東京エリアにも進出し、今年1月24日から、新規プランを加えた11団地14プランの住戸を東京、千葉、埼玉、愛知、兵庫、大阪の6都府県で一斉に受付開始しました。そのなかの一つ、東京の国立富士見台団地は、募集開始後数日で募集住戸10戸に対して19件の申し込みが入って抽選となり、また、高島平も募集後数日で全室予約が入るなど盛況です。
グッドデザイン賞も受賞するほどの空間に手頃な賃料で住める
この「団地リノベーション」の人気の秘密は、本来、ファミリー向けの広さの物件にデザイナーなどによってリノベーションを施し、グッドデザイン賞も受賞するほどの空間に生まれ変わっているにもかかわらず、賃料が比較的低く抑えられていることです。さらに特徴的なのは、リノベーションを「壊しすぎず、つくりすぎない」というコンセプトで行い、DIY(内装を自分の好きなように変えられる)も可能にした住戸もあることです。
通常、民間の賃貸住宅では、例えば単身用で予算が決まっている場合、一般的に20~30平方メートル台などの広さであることに対し、団地では40~50平方メートル台のところに一人で住むことができます。また、民間の物件では、原則的に自分で手を加えられないことがほとんどなのに対し、新しい「リノベーション団地」には、「自分で手を加えられる」住戸もあるため、広さの割に手頃な賃料とあわせ、「デザインされたおしゃれな空間で生活したい」という気持ちや個性、遊びゴコロも満たされます。高級感よりも工夫やセンスなどを生かして快適に暮らしたいと考える賃貸住宅希望者にとって魅力的に感じるのではないかと思います。
築年数が経過している団地は、物件毎の耐震性能の確認を
しかし、注意点もあります。築年数が経過している団地は、いわゆる「旧耐震」(1981年5月31日以前の建築確認)や「旧・旧耐震」(1971年5月31日以前の建築確認)であることが多いことから、物件毎の耐震性能をよく確認しておきましょう。4つのプレートが重なる場所に位置する地震国・日本においては、地震によるリスクを考慮しなければなりません。特に東京に存在する建物は(島部を除き)、関東大震災以来、90年以上、震度6以上の揺れを経験していない中で、マグニチュード7級の首都直下地震が発生する確率が4年以内に70%(東京大学地震研究所)や30年以内に70%(政府の地震調査研究推進本部)と発表されていることからも注意が必要です。
例えば、「5階建の団地は、築年が経過していても壁式構造で地震には強い造りとされ、耐震診断が行われているので大丈夫です」といった説明を受けた場合でも、団地の建つ場所そのものが軟弱地盤であったり、震度6から7があらかじめ予想されるエリアにあることもあります。また、低地や埋立地である場合、地震において建物は倒壊しないまでも想定外の強烈な揺れに見舞われたり、液状化や水害など、さまざまな災害リスクが考えられますので、賃貸であってもフラッドマップやハザードマップ、水害記録、揺れやすさマップなども事前に確認しておくと良いでしょう。
今まで、築年数の経過などにより使い勝手が悪くなったレイアウトのため敬遠されがちであった「団地」を現代のリノベーション技術やデザインによって、いかに現在の客層に合う人気物件に蘇らせ展開させていけるか、また、今後、地震や水災などの災害リスクも配慮され、いかに「安全で快適な住まい」にすることができるか、この「団地リノベーション」は、今後が注目、期待されます。
(後藤 一仁/不動産コンサルタント)