トヨタ、工場で働く従業員の賃金体系の大幅見直しへ
トヨタ自動車の上田達郎常務役員が東京都内で講演し、工場で働く従業員の賃金体系を大幅に見直す方針を明らかにしました。
優秀な若手社員を確保するため、年功序列の賃金体系を若年層に手厚い仕組みに変更し、現場を率いる「工長」「組長」の肩書も復活させ若手を率いる責任感を意識づけるそうです。
「勤続年数=熟練」ではなくなり、年功給がミスマッチ
まず、日本の賃金体系について確認しておきましょう。日本は年功給が一般的です。年功給とは、勤続年数・学歴・年齢などの属人的要素(人を基本にして考えること)に重点を置いて組み立てられ、終身雇用を前提として作られた賃金制度です。勤続年数が長い労働者の方が、より良い労働力であるという前提に立った考えであり、江戸時代の丁稚奉公制が起源といわれています。
しかし、産業の構造は大きく変わり、終身雇用が前提の働き方は難しくなりました。そして、この年功給の考え方は、工業生産が主体で、勤務年数が長いほど技術が熟練するという一昔前の働き方にはマッチしていましたが、現在のように複雑化、高度化された進化スピードの速い時代では「勤続年数=熟練」ではなくなってしまったため、ミスマッチとなっています。それに加えて少子高齢化という社会構造の変化が、今回のトヨタの賃金制度改革に影響を与えたことは事実でしょう。
若い労働力の確保は、トヨタにとっても無視できない問題
また、2000年に1億2,693万人だった日本の総人口は、2030年には1億1,662万人になるといわれています。また、65歳以上人口の比率は、2000年では17.4%ですが、2030年には31.6%になると予測されています。総人口の減り方に比べて高齢化の進展が急速であることは一目瞭然です。具体的には、65歳以上人口は2000年で2,208万5,820人であるのに対し、2030年予測では3,685万1,920人となり、高齢者は約1.7倍に増えるものの、総人口は約0.91倍となります。
いかにして若い労働力を確保するかは、企業存続の観点からも非常に大きな課題となってくるというのは数字の上からも明らかです。そして、これは日本の超優良企業であるトヨタにとっても無視できない問題ということを示しています。
給与面から支援することで景気を下支えしようという狙いも
トヨタの発表によると、対象となる子育て世代の従業員は約4万人だそうです。この若手の世代には、子育てや教育などの家族手当を充実させたり、いわゆる賃金カーブの上昇を若手に手厚くすることで報いるということです。また、事務系を中心に導入していた能力給を製造の現場にも導入し、個人の成果を評価していくということです。
また、消費意欲が旺盛な子育て世代を給与面から支援することで景気を下支えしようという狙いや、世代間の賃金格差をなくして、意欲的に長期に働いてもらいたいという意図もあるようです。
賃金体系を変更する際の注意点は「闇雲に上げない」こと
日本を代表するトヨタがこういった方針を打ち出したことで、他社に影響を及ぼすことは必至だと思われます。
どこの業界も「求人を出しても応募が来ない」ということに悩まされています。ただし、賃金体系を変更する際に気をつけるべき点は「闇雲に上げない」ということです。それは、一度引き上げた労働条件は止むを得ない事情がない限り引き下げられないという大原則があるからです。自社にとってベストな形は何なのか?じっくりと腰を据えて多角的な視点から検討する必要があります。
(佐藤 憲彦/社会保険労務士)