企業にとっても避けては通れない「介護問題」
総務省が行った平成24年就業構造基本調査によれば、介護をしながら働いている人は約291万人、過去5年間で介護・看護のため前職を離職した人は48万7千人にも及ぶそうです。さらに、あと10~15年もすれば、団塊の世代が介護を必要とする年齢に達するため、介護をしながら働く人や介護のために離職せざるを得ない人は今以上に増えるのではないかと危惧されています。
少子化・核家族化・非婚率の上昇などにより、一昔前のように親の介護を兄弟や親戚で分担することが難しくなっています。親の介護が必要となる世代は50代・60代が大半ですが、これらの世代は、企業内で重要な役割を担っている人たちであり、介護のため離職されてしまうことは企業にとって大きな人材の損失となります。企業にとっても働く人にとっても、介護はもはや避けて通れない問題といえるでしょう。
介護休業制度や介護保険制度などを知ってもらう取り組みを
介護は、従業員にいつ降りかかるとも知れない差し迫った問題であり、人材損失リスク低減のために対応策を講じることはどの企業にとっても急務です。ここでは、中小企業でも取り組みやすい対策について、いくつか紹介します。
働きながら介護を続けるには、介護休業制度や介護保険制度などを上手く活用して乗り切っていかなければなりません。まずは、こうした介護関連制度について、その概要を従業員に知ってもらうことが大切です。これらの制度は仕組みが複雑なこともあってか、従業員自身も利用のイメージがつかみにくいことが多いのです。就業規則への明記やセミナーの開催など、企業が率先してこれらの制度を伝え広めることで、従業員の理解も進み、制度を利用することへの抵抗感が薄くなる効果も期待されます。
また、介護の現状について、会社へきちんと相談できる体制を取りましょう。従業員が悩みを抱え込んで孤立し、仕事と介護で追い詰められて心身に不調をきたしたり、退職したりすることを防止します。
従業員からヒアリングを行い、働き続けやすい社内環境を整備
そして、介護をしながらでも働き続けやすい社内環境を整備しましょう。一部、在宅勤務を取り入れたり、労働時間をフレキシブルにするなど、比較的コストがかからず導入しやすい制度から運用を開始してみても良いでしょう。
なお、制度を検討するにあたっては、従業員からヒアリングを行い、現場の声を拾うことも重要です。併せて、今、介護をしていなくても、近い将来に起こるかもしれない介護リスクについて、従業員から聞き取りをすることもお勧めです。なぜなら、個々の従業員のライフステージを把握し、その人に対する仕事の配分などの見通しを立てることができるからです。
また、従業員同士のコミュニケーション促進を図り、介護をしながら働くことに対する相互理解をすすめ、職場風土そのものを改善していくことも必要です。
(大竹 光明/社会保険労務士)