遠い政府の目標。年次有給休暇の取得率は48.8%と低い水準
労基法は、入社6か月以上で10日、6年6か月以上で20日の年次有給休暇の取得権を労働者に付与することを最低限のルールとしています。しかし、「取得しにくい」といった職場環境から、年次有給休暇の取得率は48.8%と低い水準に。その原因は、時季指定(いつ取得するか)が、労働者の申請次第になっていることにあります。政府の「平成32年に取得率70%」の目標達成は厳しい現状にあるといわざるをえません。
また、労基法は、労使合意を根拠に、年次有給休暇日数のうち年5日を超える部分については、企業が計画的に付与できる制度を設けています。しかし、計画的に付与「できる」にとどまり、義務化されていないために、年次有給休暇の取得にはあまり寄与していません。
有給休暇の時季指定の義務化は「過重労働」の撲滅がテーマ
平成27年2月6日の労働政策審議会の分科会において、それまでの報告書骨子案をかなり具体的にしたものが示されました。大きな枠組みは「働きすぎ防止のために現行法を整備するもの」とされています。いわゆる「過重労働」などの撲滅がテーマです。そのための対策として、使用者に年次有給休暇の時季指定の義務化が挙げられています。これは、年次有給休暇の取得率が低い労働者ほど長時間労働になっている比率が高いという傾向にあるからです。その意味で、今回、労働時間法制に盛り込まれる意義があると考えられます。
法整備の内容ですが、年次有給休暇の日数のうち年5日については使用者に時季指定することが義務づけられます。対象者は、年次有給休暇の付与日数が10日以上ある労働者としているため、パートタイマーは労働日数などにより対象になるか否かを判断する必要が出てきます。確実に5日の年次有給休暇を取得させることに趣旨があるため、使用者が指定した日数のほか、労働者が時季指定して取得した日数も5日から差し引けるようです。また、年休権を有する労働者に時季の意見を聞き、その意見を尊重することが省令で規定されるとの案も出ています。
また、今回の年次有給休暇の時季指定の法整備は、長時間労働を防止することに主眼があるため、リスク軽減対策の点からは、年次有給休暇を管理する帳簿を整備する必要が出てくるでしょう。審議会でも、帳簿作成を義務づける案が示されています。
労働者が自主的に年次有給休暇を消化しにくい問題は残る
報告書案によれば、企業が5日の年次有給休暇を取得させる結果となれば、時季指定義務から解放されますが、残りの年次有給休暇日数に関しては、企業に義務がないため、労働者が自主的に年次有給休暇を消化しにくいといった問題は、なお残ると考えられます。今回の時季指定義務化の波に伴い、「企業内で説明資料を作成し幹部社員研修を実施する」「リーフレットなどをベースにパートタイマーを含めた全社員に告知をする」といった組織的な説明や動機づけが年次有給休暇の消化を促進させる1つの対策になると思われます。
現状、年次有給休暇を取得されると困るといった状況から、企業の公休などを年次有給休暇の消化に充当する例も散見されます。法整備後は、時季指定を意識するあまり、そのような行為は一層、労働問題化しやすくなりますので注意が必要です。
(亀岡 亜己雄/社会保険労務士)