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海外への渡航禁止、強制力を伴う措置は憲法違反?

JIJICO 2015年2月13日 9時0分

政府、法人の渡航自粛の検討のあり方を見直す

政府は、過激組織「ISIL」が日本人2人を殺害したと見られる映像を公開したことを受け、法人の渡航自粛の検討のあり方を見直すようです。また、その直後にシリアへの渡航を計画していたフリーカメラマンに対し、外務省が旅券法に基づいてパスポートの返納を命じ、事実上、渡航を禁じられたというニュースも入っています。

紛争地域や危険地域へ渡航することを実力をもって阻止することはできるのでしょうか。

憲法は、国民の居住・移転の自由、職業選択の自由を保障している

憲法22条1項は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定め、国民の居住・移転の自由、および職業選択の自由を保障しています。これは、過去に身分によって職業が固定され、職業ごとに住む場所や働く場所が定められていたことをふまえ、個々人の自由な移動・活動を保障するために定められたものです。

また、憲法22条1項は「公共の福祉」による制限を予定していますが、この「公共の福祉」とは「人権相互の矛盾抵触が生じる場合の調整原理」と考えることが有力な見解です。この見解に基づけば、居住・移転の自由が制限されるのは、それにより他の人権を侵害する可能性がある場合に限られる、ということになります。加えて、公共の福祉による制限も必要最小限の範囲に限って許されます。仮に居住・移転の自由の制限が許される場合であっても、実力で制限することは、この必要最小限の範囲とはいえないと判断される可能性もあります。

渡航阻止が「公共の福祉」による制限といえるのか疑問

今回は、旅券法19条4号の「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要がある場合」として旅券の返納命令が出されています。確かに、本人の安全に対して国家が後見的に関与することが一切許されないわけではありません。しかし、他者の権利を侵害する可能性がないのに、返納命令という「実力」をもって渡航を阻止することが、はたして「公共の福祉」による制限といえるのかどうか、個人的には極めて疑問が残ります。

また、制限にあたっては渡航の目的も問題となるでしょう。単なるおもしろ半分で渡航する場合と、仕事や公益目的で渡航する場合で同じ規制が許されると考えることも相当ではありません。憲法22条1項は居住・移転の自由とあわせて職業選択の自由も保障しています。どのような仕事をするかについても、やはり人権の一つとして保障されています。中でも、報道はまさに表現行為であり、国民の「知る権利」に資するものでもあるため、取材行為を制限することは別途憲法21条に違反しないかどうかの問題になります。

政府がどのような結論を出すか、また返納命令について法的に争われるかどうかはまだ未知数ですが、物事はそれほど単純ではなく、重大な人権制約を伴う可能性がある、ということを肝に銘じておくべきでしょう。

(半田 望/弁護士)

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