数代前の名義のまま放置されている不動産も
毎年2月は「相続登記はお済みですか月間」とされており、今年も2月1日から28日まで、司法書士会でキャンペーンが実施されています。
相続登記とは、不動産の名義人が亡くなった場合に、相続人に名義を変更する登記のことをいいます。相続税の申告期限が被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内と定められているのに対し、相続登記には期限が定められておらずペナルティも無いため、一般的に放置されていることが多いようです。それどころか、数代前の名義のまま放置されている不動産も珍しくありません。
相続登記の放置リスクは、被相続人が亡くなってから、時間が経過すればするほど、権利関係が複雑化することから生じます。
相続人の範囲が広がり、面識のない人と遺産分けの話をする羽目に
具体的には以下のようなことが考えられます。
(1)相続人の調査が大変に。
相続人を特定するために、すべての被相続人が生まれてから亡くなるまでの間の戸籍を取得しなければなりません。しかし、あまりに古い戸籍は廃棄処分されてしまいます。すると、必要書類が揃わないばかりか、相続人を特定できないリスクも生じます。当法人で最も多く調査したケースは、なんと84名に上りました。これでは戸籍を集めるだけで数か月もかかってしまいます。
(2)相続人間の話し合いが不可能に。
長い間、相続登記を放置すると、その間に次々と相続が生じることがあります。すると、相続人の範囲が広がり、「親戚だけど会ったこともない人」と、遺産分けの話をしなければならなくなります。財産に関する話は、普段、顔を合わせている者同士でもまとまらないもの。面識がなければ、財産分けの話はさらに難航します。
「登記はいつでもできるから後回しで良い」はトラブルの始まり
一般的に、期限のない相続登記をするのは「登記をする必要に迫られるから」ですが、上記のようなことが原因で、相続人の特定や話し合いに、想像以上の時間を要することとなります。すると「不動産の売却期限に間に合わない」「相続登記に時間がかかりすぎて、金融機関から融資を受けられなくなった」という事態も頻繁に起こります。「登記はいつでもできるから後回しで良い」と安易に考えてしまうことが、トラブルの始まりです。
登記申請に期限はありませんが、「速やかに相続登記をすること」が、家族間での無用なトラブルを防ぎ、大切な資産を守ることにつながります。
(山口 里美/司法書士)