親の介護に直面し、離職に追い込まれる労働者たち
親の介護を独身の子どもが担う「シングル介護」。晩婚化、非婚化が進むにつれ、我が国において、このケースが増えています。そして、介護に直面することとなった人々にとって大きな問題となるのが仕事との両立。実際、介護との両立ができずに離職に追い込まれる労働者が後を絶ちません。企業にとっても、介護離職によって貴重な人材を失うことは、経営リスクとして見過ごせない状況となっています。
それでは、社員が離職を選択することなく仕事と介護を両立させるための支援策として、企業できることはないのでしょうか。
介護との両立を支援し、柔軟性のある働き方を制度として整備
まず一つ目は、柔軟な働き方が可能となる社内制度を整備することです。育児・介護休業法では、要介護状態にある家族を介護する労働者の申し出に基づき、所定労働時間の短縮措置を講ずることを企業に義務づけています。各企業の就業規則にも、この措置に関して規定されていることでしょう。
ただし、重要なことは、就業規則に定型的に規定するだけではなく、介護との両立を支援し、それを可能にするための制度として整備することです。「勤務時間帯や制度の利用期間について柔軟性を持たせる」「正社員の身分のまま所定労働時間を短縮できる短時間正社員制度を導入する」といったことなどが挙げられます。また、フレックスタイム制の導入、在宅勤務制度の整備なども挙げられるでしょう。
ここで留意したいことは、介護事情は個別性が極めて高いということです。介護を受ける家族の状態、利用する介護サービス、協力者の有無など、それぞれが全く異なる事情を抱えています。従業員が利用できる制度の選択肢を増やし、複数の選択肢の組み合わせを可能とすることが、両立支援をより有効なものとするポイントと言えます。
馴染みが薄い介護保険制度。従業員に適切な情報提供を
さらに企業に求められるのは、従業員に対して適切な情報提供を行うことです。介護保険制度は、実際に介護に直面するまでは馴染みが薄いものです。介護保険の利用条件である要介護認定、利用できるサービスの種類と内容、利用者が負担する費用などの介護保険制度の概要の他、相談できる外部の支援機関や民間が行う制度外の介護支援サービスに関する情報も提供しましょう。
社内の支援制度の周知はもちろんのこと、介護に直面する前に介護保険・介護サービスについての理解を深めておくことは、従業員が抱く介護離職の懸念を払拭する助けになるはずです。
介護離職問題を解消できるか否かは企業の支援がカギを握っている
介護離職による弊害は、収入を失うことにより経済的苦境に陥ることに留まりません。働く機会を失うことは、社会との接点を一つ失うことであり、家族の介護に多くの時間を費やすことと相まって、社会的孤立に追い込まれることも少なくないのです。
このような状況を回避するためには、両立支援制度をはじめとした企業内資源、公的資源あるいは民間の資源を有効に活用し、仕事を辞めずに介護に関わっていくほかありません。やはり、仕事と介護の両立ができるか否かは、従業員に対する企業の支援に大きく左右されると言わざるを得ないでしょう。
(佐々木 淳行/社会保険労務士)