女性と交際することが煩わしい「絶食系男子」
NHKや新聞社の調査によって、若い男性における「性の絶食化」が進んでいると報じられ、話題になりました。「草食系」に続いて生まれた「絶食系」という言葉は、恋愛に興味を示さず、女性抜きで人生を楽しむことができるタイプの若い男性のことを指します。「絶食系男子」の2人に1人は女性との交際経験も性体験も無いそうです。もちろん結婚についても、大半は「したい」と思っていません。
このような「絶食系男子」は、単に女性が嫌いであったり苦手であったりするわけではなく、友だちとして付き合うことには何の抵抗も無いといいます。ただ、性愛を含む異性のパートナーとして交際することは煩わしく、むしろ同性との交際を好むようです。
「性の絶食化」は女性でも。男女の経済格差の縮小が要因
このような傾向が若い男性にはっきりと認められるようになって来たために注目を集めることになったと思いますが、新聞社の調査でも明らかなことは、16歳~19歳、20歳~24歳、25歳~29歳のどの年齢層でも、そもそも性関係に「関心がない+嫌悪している」としている割合は「女>男」です。つまり、絶食化が進んでいるのは男性ばかりでなく、女性の側でも同様で、相互的な現象なのです。
あるブログが分析をしている通り、性的魅力を別にすれば、結婚において女性が男性に求めるものは、まず経済力です。複数の調査において、自分より収入が低い男性との結婚について、「考えられない」とする女性が6割~7割という結果は頷けます。
一方、政府の調査によれば、1980年以降、今日に至るまで、給与の男女比(男/女)は如実に低下し、それと並行して30歳~35歳の女性の既婚率も激減しています。特に30歳女性では、90%弱から60%弱へと30%も下がっているのです。すなわち、働く女性が増えた結果、女性の経済力も徐々に強くなり、男性にとって恋愛、ひいては結婚の対象となる女性を獲得することへのハードルがとても高くなっているのも事実です。
本当は女性が欲しいのに…「酸っぱいブドウ」の心理が影響?
女子の絶食化の心理は、上記のように経済力の絡みから自然と想像され、特に女性の感じ方が変わったとは思えませんが、男性の方の心理となると複雑で、現時点では推測の域を出ないと言わざるを得ません。ひとつには、社会進出する女性の心の中で「男性性」が強く働いていると考えられますが、それに対応して、男性の中の「女性性」が増している(例えば、状況によっては女性がそうであるように「性関係がなくても平気」といった傾向)と言えるかもしれません。
次に考えられるのは、「認知的不協和」すなわち「酸っぱいブドウ」の心理が働いているということ。本当は女性が欲しいのですが、余りにもハードルが高いので、「面倒くさいから」「好きなことをする時間がなくなるから」「同性との関係の方がずっと楽しいから」と考えて、「女なんてどうせつまらないよ」と欲望を打ち消してしまうことによって心の葛藤状態を無くしているという可能性です。
「絶食系男子をなんとか落としたい」と一生懸命になる女性も珍しくないそうです。このような女性たちに頑張ってもらって、「絶食系男子」の世界観を変えてもらうと、世の中がまた一段と面白くなるかもしれません。
(池上 司/精神科医)