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医師から「治療拒否」同意書、法的に問題は?

JIJICO 2015年2月23日 9時0分

医師は、正当な理由がない限り診療を拒否してはならない

最近の報道で、医師から「この病気については今後一切この病院での治療を受けないことに同意する」という内容の同意書への署名を求められたケースが紹介されていました。患者が、主治医の勧める治療方法を選択しなかったことから、主治医が同意書への署名を求めてきたようです。

しかしながら、このような同意書には大きな問題があります。医師には、医師法により、診療を求められた場合には、正当な理由がない限り診療を拒否してはならないという義務が課せられています。この正当な理由とは、診療を受け付けられる体制にない場合など、かなり限定されると考えられています。よって、通常は、診療体制のある病院では、そう簡単に患者を拒否することができません。

同意書を取得したとしても、不当な診療拒否となる可能性も

では、今回のような同意書があれば、正当な理由があるといえるのでしょうか。 確かに、ある患者が強い意思で「絶対に、この病院は嫌だ」という意思表示をした場合は、正当な理由があると評価されることもあるかもしれません。しかし、「絶対に、この病院は嫌だ」と心から思っている患者であれば、将来、その病院で治療を受けようとはしないはずです。この患者がその病院で治療を受けないようにするためには、病院に同意書があっても意味がありません。むしろ「万一のことがあっても絶対に、この病院には搬送しないでください」という趣旨を、病院に対してではなく、救急隊や家族などに対して伝えたいのではないでしょうか。

こう考えると、同意書が存在する理由は、あくまでも「この患者を診療したくない」という病院側の意向ということになります。 よって、仮に患者が同意書に署名したとしても、それは消極的な意思に過ぎません。患者の意思が消極的なものに過ぎないのであれば、医師法で求められている義務を拒否できるほどの正当な理由であるとは評価できないと思います。したがって、今回のような内容で同意書を取得したとしても、病院にとってはあまり意味がなく、逆に、不当な診療拒否となる可能性もあったのではないでしょうか。

主治医は、患者にもう少し気を遣うべきだったといわざるを得ない

もっとも、この主治医も、この患者に治療を受けさせないようにすることが目的ではなかったと思います。「患者の病気が悪化したとしても自分の責任ではない」ということを形に残したかった、あるいは、「自分の勧める治療方法を受け入れてくれなかった患者なので、今後も治療を継続することは難しい」と考えたのではないでしょうか。

しかし、そうであれば、「今回、○○という治療方法を勧められましたが、私は自分の意思でその治療方法を選ばないことにしました」という程度の内容で署名をもらったり、あるいは「方針が違うことが今後もあるかもしれないから、それでも自分の下で治療を継続するか、それとも違う病院へ変えるかを選んでほしい」と、患者の選択に委ねてみたりすれば良かったのではないかと思います。

その意味では、この主治医は悪い目的を持っていたわけではなく、方法を間違えてしまったということなのかもしれません。とはいえ、このような同意書への署名を求められたのでは、患者はとても不安な気持ちになります。もう少し気を遣うべきだった、といわざるを得ないでしょう。

(川島 英雄/弁護士)

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