「マタハラ」は「セクハラ」や「パワハラ」と肩を並べる社会問題
働く女性が、妊娠・出産を理由に職場において精神的または肉体的な嫌がらせを受けることを「マタニティーハラスメント(マタハラ)」と言います。厚生労働省は増加する「マタハラ」を防止するため、企業への指導を厳しくするよう全国の労働局に指示を出しました。具体的には、妊娠や出産と企業が解雇や降格などを行った時期が近ければ原則「マタハラ」に該当すると判断し、雇用主に報告を求めるなどして被害の拡大を食い止めるとのことです。
これまでの時代、妊娠・出産等の際に女性は会社を辞め、その後の育児に専念することが日本の慣習として根付いていたため、ハラスメントを受けたとしても大半が泣き寝入りするしかありませんでした。しかし、今では男女雇用機会均等法の施行によって女性の社会進出が当たり前の時代となり、「マタハラ」は「セクハラ」や「パワハラ」と肩を並べるほど社会的な問題になってきました。
今後、企業として対応を間違えると大きな問題に発展するリスクを抱えることになるでしょう。
自主退職を誘導するような発言はNG
それでは、企業としてどのような対応がNGになるのか検証してみましょう。典型的なマタハラとして挙げられるのが、妊娠や出産したことを理由に自主退職へ誘導したり、解雇、契約解除などを行うことです。この中でも自主退職に誘導するために、過酷な労働や長時間の残業を強制したり、嫌がらせとなる発言を繰り返したり、精神的に追いつめるパターンが一般的に多いと考えられます。
■企業のNG発言
「妊娠したら、普通は会社を辞めるよね」
「妊婦が会社にいるとみんな気をつかうから、辞めて欲しい」
「妊婦を面倒見るほど、うちの会社は余裕がないんだよね」
「普通に働けない人が会社にいるのは、迷惑になる」
「仕事はいいから、子育てに専念したらどうかな」
例えば、上記のような発言は「マタハラ」とみなされる可能性が高くなります。
妊娠・出産を理由にした降格処分は原則違法
妊娠・出産を理由に降格処分を行う会社もありますが、昨年最高裁では妊娠した女性が勤務先で受けた降格処分について「本人の合意か、業務上の必要性について特段の事情がある場合以外は違法で無効」とし、本人の同意なく妊娠を理由にした職場での降格は、原則として違法とする判断を示しました。
企業側として、経営者だけではなく管理職者や一般の従業員もどのようなことが「マタハラ」に該当するのかをしっかりと理解し、女性が妊娠・出産してからも働きやすく、復帰しやすい職場を構築していかなければなりません。そして、妊娠・出産・育児に関して職場のみんなで協力しあえるような信頼関係を作ることも大切となるでしょう。
(田中 靖浩/社会保険労務士)