厚生年金基金のうち、290基金が解散を予定
会社員の人は、自分の会社の退職金制度を把握していますか?「退職金?何かしらあると思うけど…」。そんな風に考えている人は、今この瞬間に数百万円の損をしている可能性があります。
退職金とは、その会社独自の福利厚生制度です。会社によっては退職一時金として退職時にまとまったお金を支給するところもあり、一部あるいは上乗せとして年金タイプの企業年金を設けているところもあります。
企業年金というのも、その会社独自の制度です。この制度がある会社に勤めている人は、老後の生活が優遇されていると自覚できます。しかしながら、この企業年金の代表格であった厚生年金基金が今大きな問題を抱えており、会社員の多くが将来の備えを失おうとしています。朝日新聞の報道によれば、会社員らが入る厚生年金基金のうち、2014年末時点で290基金が解散を予定し、その9割が2013年度末時点で企業年金の積み立て不足に陥っていることがわかったといいます。
平成に入ってほとんどの厚生年金基金が運用に苦しむ
厚生年金基金とは、昭和40年代より多くの会社が利用した企業年金制度です。企業は国の制度である厚生年金からお金を借りて運用し、その利ざやで自社制度を維持するという仕組みです。制度発足当時は運用成績が非常に良好で、少ない負担で手厚い老後の備えを会社が用意できました。
しかし、平成に入ってほとんどの厚生年金基金が運用に苦しみます。何しろ厚生年金から借りたお金のリース料は5.5%、それ以上の運用成果を上げなければ自社の上乗せ制度どころか、国に対する借金が膨らむばかりです。
厚労省も厚生年金基金の全面的廃止の方針を打ち出す
大手企業は、平成10年ころから厚生年金基金の運用不振および国に対する借金は、改善不可能であると判断して早々に厚生年金基金の解散を決定しました。なぜなら、必要な資金に不足する分は企業の利益から補てんしなければならず、それは企業の存続にもかかわってくる大きな問題だったからです。
大企業の厚生年金基金は、将来の支払い義務を負うことのない確定拠出年金や、負担の少ない確定給付年金に企業年金の姿を変えていきました。しかし、それ以外の企業は決断が遅れ、さらに多額の損失を被ってしまうなど、事態はどんどん深刻化していきました。このような背景を受け、厚生労働省もいよいよ厚生年金基金の全面的廃止の方針を打ち出しました。
「お金を受け取る権利」を失うことになる
厚生年金基金の解散は加入者にとっては「権利の喪失」です。厚生年金基金は、定年退職後に年金あるいは一時金として従業員に支払われるお金です。金額は基金によって異なりますが、月7千円から2万円程度とも言われています。
金額としてはそれほど大きく感じないかもしれませんが、受取期間が終身であり、老後を30年とすれば250万円から700万円以上もの「お金を受け取る権利」を失うことになるのです。現在、厚生年金基金解散の同意を求める書面がさまざまな会社で出回っています。現役世代は企業年金の存在を知らない人が多く、安易に判を押す場合もあるようです。
厚生年金基金の解散は個人がどうこうできる問題ではないかもしれませんが、本来もらえるはずだった老後のお金が無くなるのです。国の仕組みはどんどん縮小しています。国の問題とするのではなく、自分の問題と考えて手を打っていく必要があります。
(山中 伸枝/ファイナンシャルプランナー)