消費者を害する約款を無効とする民法改正案
2月24日、法制審議会が法務大臣に対し、1896年(明治29年)から改正されてこなかった「契約」に関する民法の規定(債権法)を、現代社会に合わせて大幅に見直すべきとし、民法改正案の答申をしました。改正案の内容は多岐にわたりますが、消費者を害する約款を無効とすることも盛り込まれています。
「約款」というのは、企業が多数の消費者との契約をスムーズに処理するため、あらかじめ画一的に定められた契約に付された要件のことです。イメージとしては、インターネットで買い物をする際、最後に「同意する」にチェックを求められることがありますが、そこに書かれているのが約款です。契約の内容を補充することを目的としています。
約款は広く使われているにもかかわらず、民法規定が存在しない
約款は広く使われているにもかかわらず、市民生活の基本条項を定めた民法には規定がありませんでした。改正案では、約款について明文化し、契約の際に約款の内容を消費者に表示すること、表示した時には、約款の条項についても合意したことと見なすとしています。ただし、表示さえしていれば、どのような約款でも契約当事者である消費者が拘束されるわけではありません。
約款は言葉が難解で、項目も多く、細かい文字でびっしりと書かれていることなどから、消費者が理解できないまま契約をしていまい、解約時の違約金の支払い、事業者の責任の範囲をめぐってトラブルになることも少なくありませんでした。
今後、事業者は約款の見直しを迫られることに
そこで、改正案は消費者保護のため、消費者を著しく害する約款は、それを消費者に表示していたとしても、条項を無効とすると規定しました。たとえば、解約できる期間を極端に短くする約款、商品の発送後に破損が生じても一切責任を負わないとする約款などは無効とされるでしょう。
これまでの裁判例などでも、消費者の利益を一方的に著しく害する類の約款は、消費者契約法や民法の一般原則(信義則)などの解釈を通じ、無効とされることも少なくありませんでした。したがって、情勢に大きな変化は生じません。しかし、民法に約款と消費者保護のルールが明記されることによって、事業者は約款が消費者に理解しやすいものとなっているか、また、消費者を一方的に害することのない内容となっているかの見直しを迫られることになりそうです。
(中村 伸子/弁護士)