介護職員による高齢者の虐待件数が過去最多を更新
厚生労働省は2013年度に確認された特別養護老人ホームなど介護施設や居宅サービスの職員による高齢者の虐待件数が、221件と前年度より66件増えて過去最多を更新したと発表しました。なぜ、介護職員による虐待がこれほど多くなったのでしょうか。
原因として考えられるのは、施設の閉鎖性、隔離性の問題に加え、仕事の過酷さに対して給与が低い、人手不足による疲労、ストレスなどです。しかし、これらはどの施設でも共通すること。虐待が起こらない施設と起こる施設で、何が異なるのかが問題です。そしてそれは、職員に対する教育と高齢者への理解の違いではないかと考えられます。
相手を人として尊重する気持ちが決定的に欠けている
以前、あるセミナーにて大学で認知症高齢者の研究をしつつ、自身も介護現場に身を置く人の話を聞く機会がありました。その人によると「認知症の方は、脱水状態になると不安定になり、せん妄や意識障害等の症状を引き起こすことがある。そして、それらが原因となって興奮状態や暴力といった症状が出るため、正しい知識を得ているのといないのでは、介護する側の負担は全く違ってくる」とのことでした。
また、虐待をするということは、相手を人として尊重する気持ちが決定的に欠けているということです。現場に詳しいある人は「介護職員の多くは、高齢者の生年月日は知っていても、その方が生きてきた時代背景や文化を知ろうとはしない。それでは、相手の気持ちに寄り添った介護などできるはずがない」と話していました。
高齢者の尊厳を大切にした介護が求められる
世話をしている高齢者が、どのような人生を歩み、どんな家族がいて、どんなことが好きだったのか。彼らが若かりし日、どんな時代を生き、何が流行っていたのか。こうした高齢者の「人」としての歴史を知ることで、職員の気持ちにも変化が出てくるのではないでしょうか。
もちろん、大勢の利用者一人一人について、詳細な情報を把握するのは困難なことです。人手不足の現場では、そんなことにまで気がまわらないかもしれません。それでも、こうした情報を得た上で接することで、高齢者の尊厳を大切にした介護が可能になります。
今年4月から、介護報酬が減額されることが決まっています。これまで以上に経営が圧迫され、職員の待遇低下や教育機会の減少などが懸念される中、いかにして虐待を起こさない施設を、そして職員をつくるか。事業所任せにするのでなく、国や自治体、そして利用する側の私たちが、もっと真剣に考える時期に来ているのではないかと思います。
(五井 淳子/社会保険労務士)