厚生年金に加入していない会社員の存在が問題に
近年、厚生年金に未加入の会社員が多数いることが問題になっています。これは、企業による保険料の未払いが原因として挙げられます。
そもそも厚生年金とは、下記に該当する人が加入する保険制度です。
(1)常時5人以上の従業員を使用する個人経営の法定16業種の事業所(農林水産業・接客・娯楽・理容等・法務業・宗教業は除外)
(2)国、地方公共団体、法人の事業所で常時従業員を使用する者
(3)船員として船舶所有者に使用される者
国民年金が「1階部分」といわれるのに対して「2階部分」の制度で、正式には「厚生年金保険」といいます。わかりやすく言えば、5人以上の会社か法人であれば強制加入ということです。ちなみに、営利と非営利の分け隔てもありません。株式会社・有限会社・合資会社・合同会社・社団法人・財団法人・NPO法人など、すべての法人です。
厚生年金は、手厚い給付が受けられるというメリットがある
厚生年金保険法に定める保険給付は、大きく分けて3種類あります。
(1)老齢厚生年金
(2)障害厚生年金、障害手当金
(3)遺族厚生年金
広く知られているのが老齢厚生年金でしょう。これは、老後の生活を支えてくれる生活費となります。原則的には65歳から支給が開始され、国民年金の上乗せ給付という位置づけで支給されます。
次に障害厚生年金及び障害手当金です。これは厚生年金をかけている労働者が一定の障害状態(精神障害も含む)になったときに支給されるものです。障害厚生年金の1級と2級は国民年金の障害基礎年金と連動して支給されます。
最後に遺族厚生年金です。遺族厚生年金は、厚生年金をかけていた労働者が死亡したときに一定の条件を満たす遺族に支給されるもので、これも国民年金の遺族基礎年金に連動して給付が行われる年金です。
このように厚生年金は、国民年金と連動して支給される場合がほとんどで、手厚い給付が受けられるというメリットがあります。
体力の無い企業は偽装してでも強制加入を逃れたい
しかし、企業の負担が大きいというデメリットもあり、それが厚生年金加入逃れの問題を引き起こしているとも言えます。平成29年9月以降からは保険料率が18.3%になります(現在は17.474%)。これを社員と企業が折半して国に納めます。
例えば月給が30万円の場合、月額の保険料は5万2,422円となり、その半分の2万6,211円を企業が負担します。平成29年9月以降であれば、月額保険料は5万4,900円で半分の2万7,450円を企業が負担することになります。これ以外にも、雇用保険料や健康保険料の負担も発生します。それゆえ、体力の無い企業には偽装してでも強制加入を逃れたいという心理が働くのでしょう。
不正が発覚すれば倒産も。社会保険制度に加入を
しかし、目先の利益を追い求めて加入逃れをしても、いつかバレます。不正が発覚すれば悪評が流れ、取引先からの信頼は失墜するでしょう。また、「ブラック企業」という不名誉なレッテルを張られ、求職者が集まらないという事態にもなりかねません。社員の士気低下を招いたり、社員が大量離職したりすることも考えられ、いずれにせよ、最悪の場合、倒産に追い込まれてしまいます。
今は「誠実であること」が強く求められる時代です。取引先の信用を得て、社員の士気を維持するためにも、しっかりと社会保険制度に加入しておきましょう。
(佐藤 憲彦/社会保険労務士)