スキマスイッチのライブ発言がネットで炎上
先日、音楽ユニット「スキマスイッチ」が秋田市内の料理店の対応について、自らのライブで述べたことが波紋を広げていると報じられました。報じられたところによると、スキマスイッチと観客とのやり取りの中で、料理店の店名を出して、「すき焼きの野菜が残っていたのに下げられた」「ハタハタをもっと食べたかったのに1匹しかいなかった」という趣旨の発言をしたとのことです。
法的には料理店の名誉あるいは信用を棄損したかどうかが問題になりますので、以下を検討します。
スキマスイッチの発言は、料理店の社会的評価の低下を招くもの
名誉棄損とは、一般的には「人(法人などを含みます)の社会的評価の低下を招く危険のある行為」と定義できます。現実に社会的評価を低下させなくても「その危険性を生じさせたことで足りる」とするのが最高裁の考え方です。スキマスイッチの発言は、料理店の客への対応が拙いことを想起させるもので、料理店にとっては、社会的評価の低下を招くものといえるでしょう。
また、ライブ会場で発言がなされたことで、不特定多数の人が知ることになったほか、Twitterなどを通じて広く拡散される状態であったことも「社会的評価の低下を招く危険性を生じさせた」と考えられます。
事実あったことを発信しても、名誉棄損に該当する可能性も
今回の料理店は、事前の要望通りに料理を出すなどしたとのことですが、料理店によっては、客に対する対応が雑で、不満の一つでも発信したくなることもあるかもしれません。その場合、事実あったことを発信しても、前記の定義に当てはまれば、名誉棄損に該当することになります(もちろん、損害賠償などの民事責任が生じるには、名誉棄損に該当する行為のほか、故意過失や、損害の発生・金額、因果関係などまで立証する必要があります)。その上で、(1)事実に公共性があり、(2)目的にも公益性を有し、(3)示した事実が真実である、または真実であると信じるにつき相当の理由がある場合、名誉棄損には該当しないと解されています。
今回の例でいえば「すき焼きの野菜が残っているのに下げられた」「ハタハタが1匹しかいなかった」というのは公共性があるとは言い難いでしょうし、ライブ会場での発言からは目的に公益性を有していたというのも困難だと思います。また、事実が真実であること(または真実であると信じるにつき相当の理由があること)は、原則として表現者側が立証する必要があるとされています。
SNSの普及により、想定をこえて他者の名誉を害することはある
スキマスイッチとしては、ライブ会場を盛り上げるために前記のような発言をしたのかもしれません。しかし、TwitterなどSNSが日常の生活に広く利用されるようになった現在では、発言者の想定をこえて、発言が拡散されてしまい、結果として、他者の名誉や信用を害することになることは十分あることです。
一昔前と違い、現在では、メディアでなくても、一般人が自らの発信について名誉棄損で訴えられるリスクが高まっているといえますし、逆に、公人・有名人でない一般人が名誉や信用を毀損されるリスクも看過できない状況にあります。このように一般人が両面のリスクにさらされている現状においては、発信者が発信前に一呼吸を置いて問題がないか考えることで、これらを低減するよう努める必要があるのではないでしょうか。
(長谷川 武治/弁護士)